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心と社会 No.157
巻頭言

心と社会と福祉の課題

石川到覚
大正大学

 今春から初夏にかけてNHK総合テレビは、「サイレント・プア」というタイトルの連続ドラマでコミュニティソーシャルワーカー(Community Social Worker:CSW)が主人公(女優・深田恭子)となって奮闘する姿を放映した。そのモデルとなった大阪府豊中市社会福祉協議会のCSW・勝部麗子を紹介する「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組は、ドラマでは描き出せないリアルなCSWの姿を、まさに臨場感をもって伝えていた。
CSWが注目されてきた背景には、全国各地の自治体(主に社会福祉協議会)がCSWを配置しなければ立ち行かない地域問題の拡大とともに、その問題が深刻な状態に陥っているからに他ならない。これまでの社会制度が縦割りのシステムでしか機能せず、その狭間に据え置かれて孤立した人びとは、各種の社会サービスを享受できないまま、複合的な福祉課題を抱えざるを得ないからでもある。これまで繰り返し論じられてきた、わが国の人口減少、超少子高齢社会の急進、過疎・過密の激化などによる急激な地域変動が多くの福祉課題を顕在化させ、それらの解決を過誤できない状況にまで至ったからであろう。こうしたCSWの取り組みには、「心と社会と福祉の課題」が中核にあることも見逃せない。

 ところで現在、よく例示される「騎馬戦から肩車」といった高齢者を背負う社会の到来という比喩で述べられるが、それらは地域関係の希薄化とともに、高齢者の単身世帯が急増した地域では、その典型例が誰にも看取られずに孤立・孤独死となる例は後を絶たない。または、若年者の自死、児童・障がい・高齢者への虐待、近親者への暴力、いじめの問題などの多くの社会問題に直面し、メンタルヘルスや社会福祉の領域における専門職のチームが立ち向かうべき課題に迫られている。これらは従来の社会保障の制度設計では立ち行かず、近年の福祉政策における潮流となってきたソーシャルエクスクルージョン(社会的排除)からソーシャルインクルージョン(社会的包摂)へと政策転換させるという政治・経済・社会的な課題でもある。

 かつて2012年9月に内閣府の社会的排除リスク調査チームは、『社会的排除にいたるプロセス〜若年ケース・スタディから見る排除の過程〜』と題した報告書を公表し、当時の内閣官房社会的包摂推進室長の湯浅誠が「弱い個人を包み込めるような社会でこそ、実は強い個人が育つのだ」という視点から、若年者の53事例を通じた分析結果を示した。既に周知のことであろうが、ここで敢えて少しく紹介してみたい。

 その報告内容は、社会的排除のリスクを「複合的で単一な発生は稀であり、二つ(以上)のリスクが併発するか、まったく関係がないと思われてきたリスクが併発している事例もある」という。その類似性では、「事例が抱える潜在リスクは重複しており、社会的排除に至ったプロセスも類似している」と分析した。また、排除のプロセスは、次の3つのパターンがあるとし、「@生まれつきの本人の持つ『生きづらさ』(発達障害、知的障害など)が幼少期から様々な問題を引き起こし、問題を抱えたまま成人となったパターン、A家庭環境に様々な問題が内包されており、教育、人間関係の形成などへ悪影響を及ぼしており、成人となったときに大きなハンデとなってしまっているパターン、B様々な潜在リスクが存在したとしても、決定的な悪影響を受けずに来たものの、学校や職場などにおいて劣悪な環境に置かれたことによって排除状況となったパターン」に集約した点に注目したい。

 それら社会的排除の典型であるホームレスや薬物・アルコール依存症、自殺、若年シングル・マザーなどの問題は、「それぞれ独自の社会問題として捉えられてきたが、これらをすべて社会的排除という一つの社会問題として捉えることができる」と総括している。その対応となる社会的包摂の方向性は、出生時から成人期に至るまでの各ライフ・ステージにおいて、適切な支援が必要であるとした提言である。

 直近の2014年6月に日本精神保健福祉学会の第3回全国学術研究集会に参画した中、日本司法福祉学会の加藤幸雄会長が「司法福祉の世界からの精神保健福祉学への期待とその可能性」と題する基調講演において、司法福祉学と精神保健福祉学との共同研究を提案された。そこでは犯罪者や非行少年が、事件を引き起こしてしまう過程での排除と、更生保護の過程での排除という二重の社会的排除を受けているとの示唆を受けた。そうした司法福祉学の研究対象である犯罪や非行などの行為者への支援策となる研究は、メンタルヘルス課題の研究を想定せずには進まない旨の持論を展開された。

 さらには、2014年7月に内閣府が示した『子どもの貧困対策に関する大綱』原案では、「地域を基盤とした支援システムの構築」を視野に入れつつ、「児童生徒の心身ケア」の対策としてスクールソーシャルワーカー(School Social Worker:SSW)などの配置の拡充を進言している。まさに子どもの貧困問題は、これまで本誌『心と社会』が取り上げてきたメンタルヘルスの課題と表裏一体の関係にあることの提言とも受け取れる。

 精神保健福祉士制度の創設時より関与してきた立場から付言すれば、地域を基盤とするソーシャルワーク実践を通じたメンタルヘルス課題に立ち向かう取り組みは、福祉社会の形成にも大いに貢献できるのではなかろうか。冒頭で紹介したCSWの配置が小地域の福祉活動を推進させるという任務を担い、直近の動きで触れたSSWを小学校区への配置で期待される役割を果たし、その両者が互いに多職種と連携し合いながら、精神保健福祉の専門性を活かしたソーシャルワーカーとしての責務を遂行できれば、包括的な地域ケア体制を整え得るであろう。精神保健福祉士によるソーシャルワーク実践が子どもから高齢者までの各ライフ・ステージにおける「心と社会と福祉」の支援課題を超克できるよう、期待して止まない。

参照ホームページ
1)一般社団法人 日本精神保健福祉学会URL:http://www.jassmhsw.jp/
2)一般社団法人 日本精神保健福祉士養成校協会URL:http://www.jascpsw.jp/

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