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No.2 長時間の時間外労働と自殺
〜過労自殺について〜

東邦大学佐倉病院精神神経医学研究室 黒木宣夫
イラスト 佐藤ゆみこ


IV.長時間の時間外労働と自殺

職場における過労死・自殺の予防に関する研究(平成15年度)で231名の産業医調査5)(企業における「過重労働による健康障害防止のための総合対策」の効果に関する研究)で栗原は、172事業場が過重労働を行っており、過重労働者を医療機関へ紹介した経験のある産業医は66(37.5%)であり、過半数39(59.1%)が抑うつ状態、心身症23、不整脈18という順であることを報告している。この結果からも過重労働と「抑うつ」「心身症」とは密接な関連があることは明らかである。

長時間残業に関して「心理的負荷による精神障害等に係わる業務上外の判断指針について4)」によれば「極度の長時間労働、例えば数週間にわたる生理的に必要な最小限度の睡眠時間を確保できないほどの長時間労働は、心身の極度の疲弊、消耗をきたし、うつ病等の原因となる場合がある」と記載されているのみで具体的な指標となる残業時間については記載されていない。過労死の認定基準6)では、「発症前1ヶ月間におおむね100時間又は発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって、1ヶ月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」とされている。すなわち、恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合は、「疲労の蓄積」が生じ、これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、その結果、脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼすとされているのである。

現在、労働者に月100時間以上の残業をさせた場合、医師による面接指導を行わなければならず、また2ヶ月から6ヶ月の期間に1ヶ月平均80〜99時間の残業をさせた場合も事業者は労働者に医師による面接指導等を実施するよう努めることが求められている。労災認定された自殺事案(51例)調査7)では、調査対象事案の53%(27例)に100時間以上の時間外労働がみられ、管理職と専門技術職の両者で全体の74%(38例)、また発病から死亡までの期間は、3ヶ月以内に71%(36例)が自死に至っていた。そして100時間以上の残業をしている労働者は、99時間以内の労働者に比較して、出来事から精神疾患発病までの期間が早く、発病から自死に至るまでの期間も短いことが明らかになった。内山8)も平成15年度災害科学に関する研究の中で「4時間睡眠を1週間にわたり続けると健常者においてもコルチゾール分泌過剰状態がもたらされるという実験結果もある。これらを総合すると、4〜5時間睡眠が1週間以上続き、かつ自覚的な睡眠不足感が明らかな場合は精神疾患発症、とくにうつ病発症の準備状態が形成されると考えることが可能と思われる。」と報告している。

 

 

V.家族、職場が気づいた自殺の兆候

I.はじめに
II.精神疾患の労災補償状況の年次推移
III.過労自殺の労災認定に関して
IV.長時間の時間外労働と自殺
V.家族、職場が気づいた自殺の兆候
VI.労働者の心の健康の保持増進のための施策
VII.今後の課題

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