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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

No.1 生活困窮者支援とメンタルヘルス
―NPO法人ほっとプラスへの相談事例から考察する―

NPO法人ほっとプラス代表理事  藤田孝典


NPO法人ほっとプラスの相談支援現場

 わたしは、さいたま市に事務所を構えるNPO法人ほっとプラスという団体で、主に生活困窮者やホームレス状態にある人の相談支援活動を行っている。年間約三百件の相談が寄せられ、大半の相談者が安定した住居をもっていない。そのため、入所施設や一時的な宿泊施設として、地域の空き家を借り上げる形態で居所提供事業も整備し、運営を行っている。2013年3月現在、さいたま市内にこのような受け入れ施設や住宅は、八棟あり、39世帯40名の人々が入居している。
 入居者の多くは、生活保護制度を利用して生活をしている。施設や住宅の利用料は、45,000円から47,000円で、自己負担してもらい、管理や運営を行っている。当法人では、入所者の自立や生活再建を支援するために、社会福祉士などの専門スタッフが家庭訪問を定期的に行っている。
 このような相談支援現場では、日常的に様々な相談者がわたしたちのもとに訪れ、今後の生活をどうしていくべきなのか、一緒に解決策を模索している。相談者の生活困窮の程度や状況も多様で、数日間何も食べていないために生命の危険がある者、家賃滞納が理由でアパートを追い出されてしまった者、区役所へ相談すれば 問題解決に至る可能性がある者など支援の必要性や介入方法も十人十色である。それ以外にも、知的障害の疑いがある人、統合失調症を有する人、アルコール依存症に罹患した人、糖尿病など慢性疾患を有する人、「返済が不可能な債務があるために夜逃げをしてきた」と語る人など、いろいろな理由がうかがえる。そして、多くの相談者に見られる生活課題は、安定した住居がないということである。

相談者に見られるメンタルヘルスの課題

 相談者に対して、ソーシャルワークにおける様々な理論や技法を駆使して対応することを継続しているが、インテーク面接の時点で、気づくことがある。それは精神疾患や何らかのメンタルヘルスに関する課題がはっきりと見受けられる人々の多さだ。
 例えば、先日相談を受けた40歳代の男性は「建設現場の社員寮で働きながら生活してきたけれど、人間関係が上手くいかずに寮を飛び出してきた。肉体労働のきつい仕事で心身ともに疲れ果ててしまった。もう仕事場に戻りたくない。死にたい気持ちもある。」と泣きながら話をしてくれた。男性は、仕事中に上司や同僚から「仕事が遅い」などと罵倒され、人間関係のストレスを抱えながらも我慢して仕事を続けてきたようである。しかし、ついに「心身ともに疲れ果ててしまった」という言葉が表すように、自ら辞職し、会社寮を出てホームレス状態になった。社員寮の入寮者は、仕事を失うと同時に住居も失ってしまう。そのため、男性は職場の人間関係の不安やストレスからは解放されたものの、今後の生活や住居の見通しも立たず、多くの不安を抱える中で相談に来られた。男性に対して、まずは生活保護申請を行い、住居を提供し、支援を開始している。定期的に自宅訪問を行い、面接を続けているが、男性は夜になると眠れずに、死にたいと思ってしまうという。そのため、精神科に受診同行し、医師に状況を確認すると「軽度のうつ症状」と「不安神経症」ではないかと見解が出された。現在も男性は服薬治療による療養を続けている。医師は「慢性的で持続的な過度のストレス環境に置かれると誰でも精神症状を発症してしまう」とも話された。このような男性の相談者の事例はあとを絶たない。

2.20歳代の男性の事例から〜仕事先を転々としてしまう若者〜/50歳代の男性の事例から〜刑務所を出所してきた人に対する支援〜

1.NPO法人ほっとプラスの相談支援現場/相談者に見られるメンタルヘルスの課題
2.20歳代の男性の事例から〜仕事先を転々としてしまう若者〜/50歳代の男性の事例から〜刑務所を出所してきた人に対する支援〜
3.30歳代の女性の事例から〜薬物依存症に対応する社会資源の不足〜/生活困窮者に関わるソーシャルワーカーの持つべき視座
4.『戦後の浮浪者の精神医学的研究』から/まとめ

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