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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

10 介護職員のためのメンタルヘルス

NPO法人わかば代表
辻本きく夫

 

はじめに

 介護保険制度ができて15年を経過し、介護職の仕事に対する社会の理解が少しずつ進みつつあります。しかし、介護という仕事に対しては「きたない」、「くさい」、「苦しい(厳しい)」3Kの職場であるとの偏見が依然として残っているのも事実です。また、介護は「誰でもできる」専門性の低い仕事と思っている人も多いのが現状です。介護の仕事を別の名称に置き換えるならば、それは「社会福祉援助」であると筆者は考えています。たとえば訪問介護のヘルパーは家事の代行をする人ではなく、利用者の心身の状況と変化を適格に把握し、利用者が本人らしく生きる支援をする専門家だと思います。

 施設においても同様です。在宅サービスと違うのは24時間交代体制で利用者を支える点です。交代勤務である以上、常に情報共有とチーム支援が重要となります。また、在宅サービスに比べて個々の利用者と継続的に長時間接する機会をもつのが施設の介護職員です。「きたない」、「くさい」は医療職も同じであり、違うのは給料が比較において安い点だけです。この問題は短期間で解決できませんが、介護職員がその責務を自覚し、技術と知識を伸ばすことで社会的地位を獲得していくことが求められています。かならずや介護の仕事に正当な社会的評価が下され、それに伴って正当な報酬が与えられる日が来ると信じています。介護に携わる多くの仲間とともにたゆまぬ努力をしていきたいと思います。与えられた課題は「介護職員のメンタルヘルス」ですが、筆者はもとより精神衛生の専門家ではないので、精神衛生の観点よりも「介護の仕事を元気で長く務める」ために必要と考えることを中心にまとめました。介護を自らの天職と思う諸氏の参考になれば幸いです。

介護職という仕事

1 介護の仕事には魅力がたくさん

 高齢者の介護をしているとたいへん多くのことを学ぶことができます。利用者である高齢者にはそれぞれの生活史があり、私たちに経験できない多くのことを語ってくれるからです。戦争前の日本の話、戦争中の苦労話、戦後の日本の発展の話などの歴史について事実を背景に語ってくれます。長い人生を通じて培った価値観や人生観に接するだけで、私たちの人生も豊になり得ます。認知症があっても昔のことはよく覚えています。人生の先輩として敬意をもって接することで、貴重な話が聞けるはずです。 障害者の場合、かなり重篤な障害があってもわれわれにない能力があることに気づくことがあります。障害者の笑顔の中に生きることのすばらしさを感じ取ることができます。介護職ならば当たり前ですが、便秘の続いた利用者に排泄があったとき同僚と手を叩いて祝います。脳梗塞後のリハビリを頑張ってトイレに一人で行けるようになった利用者の喜びを自分のことのように感じます。人のもつ可能性と限界。老いるということ。生きることの意味と死。介護という仕事は人間にとって大切なことをいろいろと教えてくれます。

 障害者の場合、かなり重篤な障害があってもわれわれにない能力があることに気づくことがあります。障害者の笑顔の中に生きることのすばらしさを感じ取ることができます。介護職ならば当たり前ですが、便秘の続いた利用者に排泄があったとき同僚と手を叩いて祝います。脳梗塞後のリハビリを頑張ってトイレに一人で行けるようになった利用者の喜びを自分のことのように感じます。人のもつ可能性と限界。老いるということ。生きることの意味と死。介護という仕事は人間にとって大切なことをいろいろと教えてくれます。

2 介護職はストレスの多い対人サービス

 介護職は、心身の衰えや障害による社会的支援が必要な人たちが、本来の自分らしい生活を送れるように支援するのが仕事です。仕事においては利用者本人、利用者の家族、他事業所の介護職、同僚、上司、医療関係者、行政職員など多くの人々と接する機会が多い。具体的な介護サービスを行うとともに、多くの人々と良好な人間関係を築くことが求められています。特に重要となるのは利用者との信頼関係の構築ですが、実際に仕事に就くとこれほど難しいことはありません。高齢者には長い人生で培ったそれぞれの価値観があります。障害者には障害をもって生きることに対するそれぞれの考え方があります。また、習慣、言語、判断能力、理解力など人それぞれですし、簡単に心を開いてくれることはむしろ稀です。そうした中で介護職は傾聴技術を駆使し、それぞれの個性を活かして少しずつ信頼関係をつくり上げていく作業をしなければなりません。労力がかかるだけでなく、精神的ストレスも大きい仕事です。利用者家族との信頼関係構築も一筋縄では行きません。加えて上司や同僚との人間関係も、ときとして複雑でストレスの原因となります。他職種との連携はそれぞれが専門職であり、比較的ストレスが少ないと考えられますが、医療関係者と介護職の価値観の相違から強いストレスを受けることもあります。介護職が対人サービスである以上、日頃から人間関係から受けるストレスを溜め込まない方法を学ぶことが必要です。

 

2.たかが介護されど介護〜専門性を自覚する〜

1.はじめに/介護職という仕事
2.たかが介護されど介護〜専門性を自覚する〜
3.前向きに仕事をするための心得/自己再生力を信じる〜疲れたときは徹底して休む〜
4.人生哲学をもつ〜仕事を含めて自分流の生き方を考える〜/仲間をつくる〜人から学ぶことは多い〜
5.原点を忘れない/おわりに

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