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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

5 犯罪被害者とメンタルヘルス

認定NPO法人大阪犯罪被害者支援アドボカシーセンター専門支援員
武庫川女子大学文学部講師 大岡由佳


はじめに

 犯罪被害者等基本法において「犯罪等」を、主には殺人や暴行・傷害、強姦、ドメスティック・バイオレンス(DV)、子ども虐待などの、犯罪およびこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為としている。筆者は、駆け出しの精神科ソーシャルワーカーの頃から、現在に至るまで、医療機関や相談機関、民間支援団体において、犯罪被害者支援・研究に関わってきた。その中で感じてきたことを近年のエビデンスを引き合いに論じてみたいと思う。

犯罪被害者が陥る心身等の状況

 犯罪被害者というと、大多数ではなくマイノリティーを指しているように思いがちではないだろうか。しかし、例えば近年増え続けるドメスティック・バイオレンスは、内閣府の「男女間における暴力に関する調査」によると約4人に1人は配偶者から被害を受けたことがあり、約10人に1人に至っては、配偶者から何度も被害を受けたことがあるとされている。配偶者暴力相談支援センターに寄せられた相談件数も8万9千件存在しており、例えば本邦の交通事故の死亡・重傷事故発生件数が4万9千件であることと比べても相当に多いことが見て取れる(数値はいずれもH24年度のものを示す)。

 では、それらの被害体験によって人はどのようになってしまうのだろうか。被害体験後に現れるものを“トラウマ”と呼ぶことがあるが、トラウマとは、何らかの大きな出来事が過去にあって、それが現在にも影響を及ぼしている状態を指している。その出来事の程度によっては、記憶が脳でうまく処理できないために、トラウマ反応を呈して社会生活に支障を来たす。具体的には、[再体験症状]その時の辛かったことを何度も思い出す・悪夢や不快な夢を見る、[回避・麻痺症状]出来事の起こった場所に近づけない・以前のように楽しめない、[過覚醒症状]イライラする・落ち着かない・眠れない・物音に非常にびっくりしたり、ちょっとしたことにひどく心配になる、といった症状が現れる。長期にわたり上記症状で苦悩する場合には、PTSD(外傷後ストレス障害)と診断されることもある。

 このように書くと、犯罪被害とはメンタルヘルスの悪化を指していると思いがちだが、勿論それだけではない。被害体験後は、メンタルヘルス上の不調のみならず、経済面・生活面への影響も深刻となることが多い。被害者は、医療費、診断書費用、医療機関への交通費、家族介護のための費用、亡くなった場合の遺体搬送費、葬儀費用、裁判調書の謄写費用、加害者と同じ地域に居住している場合の不安感から転居せざるを得ない費用、住宅の安心感を得るための改造費用など、急な多額の出費を強いられることになる。実際、筆者の調査1)で精神科を受診しPTSDの診断を受けた被害者調査があるが、そこでは、被害者の半数もが引越、ならびに休職・休学をせざるを得ない深刻な状況にあり、経済的状況の悪化を6割が訴え、出来事後に生活保護へ転落した者は1割も存在していた。前述したドメスティック・バイオレンスの被害者に至っては、ある調査によると公立のシェルターを退所した後の生活は4割が生活保護受給の状態になっていたとの報告2)もある。

2.犯罪被害者の法的サポート制度

1.はじめに/犯罪被害者が陥る心身等の状況
2.犯罪被害者の法的サポート制度
3.犯罪被害によって生じるメンタルヘルスの悪化の行き着く先
4.再犯防止の取り組み−被害者理解の視点から
5.犯罪被害者のメンタルヘルスに絡む新たな視点/最後に

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