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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

7 子どもの養育環境とメンタルヘルス

長野県佐久総合病院心療内科
藤井 伸


はじめに

 私は長野県のある総合病院の心療内科と児童思春期精神科の医師として勤務している。そしてある児童養護施設の嘱託医師を依頼されて施設の子どもたちや青年たちの情緒や行動の問題で相談を受けてきた。その児童養護施設は5歳から18歳までの青少年たちが総計30人、大体6人程度の小グループで暮らしているいわゆる小舎性の児童養護施設である。生活する子どもたちはすべて児童相談センターもしくは児童相談所からの措置で入所する。その措置理由の70%以上は「被虐待」で残りも「里親不調」や親の家出・蒸発となっている。専門家の指摘するところでは虐待のほとんどはその基礎に貧困があるという(1)。日々の暮らしに追われて休む暇もなく働き、疲れ果てて帰宅してただ眠るだけのような生活の中での育児は結局虐待にならざるを得ない。その「虐待」が周りに気づかれて報告され、児童相談所などのしかるべき経路を通って児童養護施設に入所して来る。

 聞くととても信じられないような惨状の中で子どもたちは傷つき、苦しんだあと、ようやく児童養護施設にたどり着いている。したがって癒しの場に着いたときにはすでに大きな心身の障がいを負っていて、ゼロでなくマイナスからの出発になると言う(2)。常駐の臨床心理士を中心に職員がひとつになって子どもたちを「癒して」ゆく(3)。しかしいわば避難港である養護施設でも傷ついた「こころ」がすぐには癒されず施設内で許容できない問題が生じ、私たちのところに職員が相談に来られ、子どもたちは診察室にやってきて日ごろの鬱憤を述べ立てる。私たちの病院が最後の救援の船、憩いの港になれるのだろうか?まったく自信はなかったが地域の中での要請を果たすため病院の臨床心理士たちの助けを借りて、手探りの中で治療(対応)に当たってきた。そのなかでそれなりに考えてきたことをここで症例を提示しながら述べてみたい。

 なお症例は女児4人で、それぞれ特定できないように細部には変更を加え名前は○子とした。当科というのは私の勤める病院の診療科(心療内科、児童思春期精神科)、K児童養護施設は私がかつて嘱託を務めた施設である。

2.症例1/症例2

1.はじめに
2.症例1/症例2
3.症例3/症例4
4.病院という避難港
5.施設職員・心理士の働きと病院医師・心理士の働き

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