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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

8 青少年の社会的自立とメンタルヘルス
〜社会的養護と今日の子ども家庭をめぐる課題〜

社会福祉法人山梨立正光生園
理事長  加賀美尤祥


はじめに

 長い間身を置き、子どもたちやその家族(親)の支援に関わってきた者とすれば、社会に送り出した子どもたちの行く末には少なからず憂慮の念を持っている。というのも、近年社会的養護の場にある子どもの多くがその原家族(親)による不適切な養育(虐待)体験から、重い発達課題を抱え、社会的自立の困難な状況が進行してきていると考えているからである。

 本稿では、戦後から今日に至る社会的養護をめぐる子ども家庭問題を通して、現代社会における青少年の社会的自立とそのメンタルヘルスの課題に言及したい。

今日の子ども家庭にまつわる事象

  いじめ、いじめによる自殺といえば、学校現場の子ども間の関係の問題と認識されている。しかし、子どもがマンションから飛び降り自殺して初めて我が子が学校でいじめにあっていたと気づく親のことが度々報道される。その家庭における日常的な親と子の関係とはどんなものであったのであろうかと疑問をもつ人は多いであろう。また、不登校は小中学校で毎年13 〜 15万人、もちろんその周辺の学校に行きたくないので遅刻や時々欠席する子どもは含まれていないであろう。常習的不登校であった子どもたちが多く含まれる青年期に向かう頃から見せる「ひきこもり」は現在80万〜 100万人といわれ、先進国の中で突出して多い国といわれている。さらに、ニートやネットカフェ難民といわれる若者たちも、ある意味「社会内ひきこもり」という見方もある。さらに、その延長線上には、若い層のホームレス、はたまた生活保護受給者の増加という現象が著しい。

 また、昨年7月の長崎県佐世保市の高校生女児による殺人事件も、その狂気性が世を震撼とさせた。こうしたいわゆる少年による凶悪事件の発端ともいえる、1997年神戸市で起こった中学生による年少児殺害事件、当時犯人が自称した犯人名から“酒鬼薔薇事件” と称された。その後も、全国各地で少年による凶悪事件が起っているが、2006年の奈良高校生放火殺人事件(勤務医の長男による自宅放火殺人事件)も、当時大きく報道された事件であった。その中で、先の神戸と奈良の事件後二人の少年が残した言葉にどこか共通するものを感じたので記述する。神戸の少年は「生まれてこなければよかった」、奈良の少年は「人生をもう一度やり直したい」というものであった。二人ともに、現在の自分を肯定できない自己喪失感を象徴的に語っていたように思う。また、二つの事件は、その後の他の少年事件同様、高校進学や大学進学をめぐる親子間の確執が契機になっていたこと、その背後に急速に進行する高学歴社会の流れに翻弄される親子や家庭の問題が思量される。加えていえば、神戸と奈良の事件の間に起こった佐賀高校生バスジャック事件と同時代に青森県で高校時代を過ごした加藤智大も幼少期からの母親による学習への過剰な干渉があったといわれるが、成人し25才で秋葉原無差別殺傷事件を起こしているのは周知のとおりである。

 家庭内子ども虐待とD.Vの問題は、双方通底する問題と認識されている。子ども虐待は、欧米では1970年代に社会問題化し、その後も拡大増加してきたが、我が国は約20年遅れて1990年代初め頃より一部の有識者や欧米から帰国した医師等により発信され、その後急速に増加し、2000年に“児童虐待等に関する法律”(以下、児童虐待防止法)が議員立法により制定されたが、その後は拡大増加の一途にある。今日、この家庭内子ども虐待は、我が国の社会的養護の最大の中心的課題であるが、先に掲げた学校問題や少年事件も何らかの形で社会的養護と深くつながる事象であるといえる。

 次に、こうした事象を現出し続けている今日の子ども家庭の問題に関し、社会的養護に関連する歴史を紐解いて理解を深めてみたい。

※家庭に養育能力がなくなったり低下したりしたときに、社会が子どもを育てたり支援したりする仕組み。その背景には虐待や親の心身の問題がある。

 

2.戦後の近代化(高度経済成長)の流れと子ども・家庭

1.はじめに/今日の子ども家庭にまつわる事象
2.戦後の近代化(高度経済成長)の流れと子ども・家庭
3.自立を困難とする子どもの増加
4.少子化と虐待の増加、そして国の未来/おわりに

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