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こころの健康シリーズZ 21世紀のメンタルへルス

No.3 日本におけるひとり親家族の現状
−多様な家族の共生社会に向けて

立教大学コミュニティ福祉学部福祉学科教授  湯澤直美


日本の社会政策の特徴とひとり親世帯

 ひとり親世帯をめぐる厳しい生活実態については、日本の社会政策のあり方に規定されている側面があることを認識することが重要です。まず、母子世帯をめぐる状況から考えてみましょう。日本の社会政策の特徴のひとつとして、「男性稼ぎ主モデル」である点が指摘されています。つまり、男性をおもな稼ぎ手とみなし女性を被扶養者と位置付ける制度改革が、1980年代以降、税制(配偶者控除等)や年金制度等を通して進められてきました。既婚女性が扶養の範囲内で就労するほうが世帯として負担が軽減されるような制度設計は、女性の就労への関わり方をコントロールする社会的装置となってきたのです。女性の経済的自立を追求しない社会政策の在り方は、企業においては男女の賃金格差を温存し、女性の就労継続を抑止するバリアとなります。結婚や出産後に退職した女性の場合、復職が難しかったり、復職できてもパート等の非正規雇用であったりするケースが多く、離婚等に至った際には低所得のなかでの子育てを余儀なくされていきます。母子世帯が直面する貧困問題には、このような日本における女性の社会・経済的地位の低さが影響しています。

 一方、父子世帯については、男性を「主たる稼ぎ手」とみなす社会政策の流れのなかで、制度的対応を要する対象として位置づけられてこなかった経緯があります。日本のひとり親世帯の基本法としては「母子及び寡婦福祉法」があり、父子世帯はこの法律のなかで「母子世帯等」という表現によって、「等」に含まれる世帯類型として付随的に位置づけられていました。そのため、母子世帯には対象となる施策であっても、父子世帯は対象とならない施策も多く存在してきたのです。たとえば、おもに低所得の母子世帯を対象としている児童扶養手当制度は、同じ所得水準であっても父子世帯は対象外でしたが、父子世帯当事者の運動によって、2010年に父子世帯も支給対象に位置付けられたばかりです。2014年には、ようやく「母子及び寡婦福祉法」は「母子及び父子並びに寡婦福祉法」に改正され、法律における父子世帯の位置づけが明確にされるようになりました。

 このようなことから、シングルファーザーの多くは、祖父母等の親族によるサポートがなければ、父子世帯としての暮らしを営むこと自体が困難な状況に置かれてきました。統計をみると、父子世帯は母子世帯よりも子の祖父母等との同居率が高くなっています。また、「母子世帯は家計、父子世帯は家事・育児」が生活課題であるというステレオタイプな見方によって、父子世帯への福祉的対応の必要性が遅れてきたという側面もあります。実際には、父子世帯においても比較的高位な所得階層から低位な所得階層まで階層分化している現状があり、その内部構成に着目して、必要な支援策を講じる必要があります。

 更に、母子世帯・父子世帯に共通する課題として、所得再分配がいかに機能しているか、という問題があります。日本の財政支出をみると、子育て世帯への社会支出が低位水準であるという特徴があります。家計上では税や社会保険料の負担が大きいにも関わらず、児童手当など所得保障給付が少ないために、所得再分配が十分に機能しているとはいえない状況です。一方、高い民間住宅家賃の負担や、義務教育であっても教育にかかる私費負担が大きく、低所得世帯ほど家計負担がより大きくなっているのです。

4.ひとり親世帯とワーク・ライフ・バランス

1.はじめに
2.ひとり親世帯数の趨勢と世帯概況
3.日本の社会政策の特徴とひとり親世帯
4.ひとり親世帯とワーク・ライフ・バランス

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