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こころの健康シリーズZ 21世紀のメンタルへルス

No.9 コミュニケーションロボットの進化と人間の関わり

公立はこだて未来大学  松原 仁


身体性

 「行動」のもう一つの要素が身体である。人間同士の対面のコミュニケーションでは非言語の情報がかなりの役割を果たしている。非言語情報とは表情、顔色、視線、身振り、手振り、姿勢、(相手との)距離、などである(ここでは声の大きさや高さ、発話の速さなどの情報は言語情報に含めるものとする)。また人間と一部の動物(犬や猫など)の間のコミュニケーションにおいても非言語情報がかなりの役割を果たしている。だとすれば、人間とコンピュータがうまくコミュニケーションするためにも非言語情報がかなり役割を果たす必要があると考えられる。これには2方向が存在する。1方向は人間の発する非言語情報をコンピュータが認識することである。これはコンピュータが眼(視覚機能)を持って画像認識をすることになる。ディープラーニングによって音声認識の精度が格段によくなったが、画像認識の精度も各段によくなった。たとえば顔の識別は人間の精度は97%程度と言われているが、コンピュータの精度は98−99%と人間を超えるまでになっている。画像認識は可視光の情報を用いて行なうことが多いが、場合によっては赤外線などの情報も用いることもある(たとえば顔や体の表面温度という非言語情報を得ることができる)。もう1方向はコンピュータの発する非言語情報を人間が認識することである。コンピュータが非言語情報を発するためには、コンピュータが身体を有していないといけない。身体を有するコンピュータとはすなわちロボットのことなので、非言語情報を含む情報を用いて人間とうまくコミュニケーションするコンピュータは身体性を持ったロボットである必要があるのである。

おわりに

 このようにディープラーニングなど最近の人工知能の技術の進歩によってコンピュータは「対話」と「身体」という性質を持つコミュニケーションロボットとなることができた。しかしようやくスタートラインに立ったということであり、コミュニケーションの深い内容を追求するのはこれからである。石黒浩は前述のようにチューリングテストに「身体」を追加したトータル・チューリングテストを提案した。筆者はさらに進めてある程度長い時間(数か月程度)会社の同僚とか学校の同級生などの仲間として人間の間で過ごしてその間人間型ロボットとわかってしまうことがなければ、それはそのロボットが人間のような知能を持ったものと見なすというテストを提案した(ただし食事とか排泄などの生理的な性質は満たしていなくてもいいものとする)。このテストを宮沢賢治の小説から「風の又三郎テスト」と名付けた。人間同士は仕事や遊びなど何らかの目的があってコミュニケーションをするのであり、ロボットも何らかの目的があって人間とコミュニケーションをするのが自然である。コミュニケーションロボットは人間とコンピュータがコミュニケーションするのが当たり前になった段階でその役割を終えるものと考える。

はじめに/対話システムとチューリングテスト
音声対話システム
身体性/おわりに

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