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こころの健康シリーズ[ 国際化の進展とメンタルヘルス

No.1 概日リズムの異常によるメンタルヘルスの問題
−海外出張とサマータイム制度−

東京慈恵会医科大学精神医学講座 内海智博/久留米医科大学神経精神医学講座 小曽根基裕


2.時差障害

1)時差障害とは

 時差障害は一般的に最低2つの時差帯域を超えたジェット飛行のおよそ1日から2日後に始まる。これは、体内の生物時計と現地の生活時間とのずれ(外的脱同調)および、生物時計に支配されている睡眠覚醒や深部体温、メラトニンリズムなどが互の関係がずれる内的脱同調により生じる。さらに、減圧された低酸素という航空機内の環境、長時間のフライトによる疲労、睡眠不足、異文化との接触等のストレスによる影響も大きい(9)

2)臨床症状

 一般的な症状は不眠や過度の眠気、日中の社会機能低下、精神症状、食思不振、嘔気等である。佐々木らはパイロットを対象に時差障害の症状の出現頻度を調査した結果、睡眠障害が67.3%、日中の眠気16.7%、パフォーマンス低下14.4%、他疲労感、食欲低下等と報告している(10)。睡眠障害のタイプとしては、東向きジェット旅行では入眠困難、起床困難、日中の眠気、疲労が起きやすく、西向きジェット旅行では新しい時差帯域の夕刻に眠気や疲労、また、早朝覚醒と再入眠困難が生じる(8)。また、西向きではうつ状態が、東向きでは躁状態が多くみられる(11)(12)

3)時差障害に影響する因子

a.位相変化の方向
 時差障害では同じ時差でもその向きによってその程度が大きく異なる。8時間程度の時差においても、西向きフライトは現地に5?6日ほどで再同調するが、東向きフライトの場合は10日前後を要する。これは位相前進に比して位相後退の方が容易である生物時計の性質による。

b.再同調の方向
 時差障害が生じ、その後再同調をするために位相変化をする際に外部の同調因子と同じ方向に位相変化をする場合を順行性再同調、逆方向に変化する場合を逆行性再同調という。たとえば、東京から時差8時間のロサンゼルスに行った際に、8時間を位相前進して再同調する場合を順行性再同調、一方で16時間分の時差を逆方向に後退して再同調することを逆行性再同調という。これは光の影響等が考えられ、また時差症状の持続時間や重症度に影響を及ぼす。高橋らの研究によると、5人中1人が逆行性再同調を示すと報告している(13)

c.クロノタイプ
 クロノタイプとは個人が一日の中で示す活動の時間的指向性である。時差8時間の東行飛行を対象にした研究では、朝型の被験者は現地の夕刻から入眠潜時が短縮して覚醒維持が困難であったが、夜型では覚醒が保たれていたと報告されている(14)

d.その他
 他に、年齢や飛行機の離陸の回数、着陸時間帯、フライトするレッグ数などが言われている。

4)治療(図2)

図2

a.睡眠衛生指導
 睡眠、活動、食事などのリズムをできるだけ現地に併せる工夫が大事である。東向き旅行の際には朝に光を浴びることは順行性再同調を促し、症状緩和に有用である(15)。日中の眠気に対してはカフェインが有効ではあるが、夜間の睡眠を阻害する可能性も示唆されている(16)

b.短時間型睡眠薬
 ベンゾジアゼピン系睡眠薬は不眠に対して有効ではあるが、概日リズムの位相を変化させる作用は明確でない。渡航先での不眠に対しては一定の効果は認められるが、一過性健忘や依存に注意が必要である。

c.メラトニン
 メラトニン受容体作動薬ラメルテオンは東向き旅行の際の不眠を改善したと報告されている(17)。外因性メラトニン服用は高照度光と同様に概日リズム位相を時刻依存性に変化させる。高照度光と逆位相の関係でありメラトニンを夕方に投与すると概日リズムは位相前進する。高橋らの研究によると、日本からの時差が−8時間のロサンゼルスでメラトニン3mgを現地の20時に服用する実験を行ったところ、メラトニン内服で15分/日の内因性メラトニンリズムの再同調が認められた。この際、逆行性再同調も生じなかったと報告している(18)(19)(図3)。2002年のCochraneのメタアナライシスでは時差障害の予防および症状軽減にメラトニン服用は有効と報告され(20)、2007年の米国睡眠学会ガイドラインではStandardとされている(21)

図3

 

3.サマータイム制度/最後に

はじめに/1.概日リズムとは
2.時差障害
3.サマータイム制度/最後に

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