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こころの健康シリーズ[ 国際化の進展とメンタルヘルス

No.2 海外駐在員と家族のレジリエンス

一般社団法人 国際EAP協会 理事長 市川佳居


2.赴任者のストレスの特徴

 赴任者とその家族のストレスの特徴は、赴任先がどこかによって大きく違います。例えば、ロサンゼルス、ニューヨークなどの北米は日本食もよく手に入り、日本語を話す医師もいて、土曜日の日本語補習校や全日制の日本語学校などの子女の教育も充実しており、日本人向けの塾、日本人だけのサッカーや野球チームまであり、生活に困ることがあまりないと言えます。しいて言えば、ストレスは、駐在員とその家族同士の関係といえます。赴任者仲間と子供の学校やスポーツチーム、スーパー、レストランまで同じなので、例えば、上司や同僚とあまり関係がよくない場合、逃げ場がない、ということが挙げられます。子供も、親の職場での上下関係の影響を同級生との関係で受けることがあります。 赴任先が、アジア、東欧、南米など日本人が少ない国や都市でしかも公用語が英語でない場合、医療、食生活、学校、大気汚染による悪環境などの生活の不便さが多々あり、ストレスにつながっています。これらの国では、赴任者と帯同家族のストレスの要因は、1、医療 2、子女の教育、3、日本の日常品の入手度 (1位〜3位の順不同)、があげられます。そして、赴任者においては、4、現地の社員との仕事の仕方の違いが挙げられます。図2に赴任先の特徴によるストレス度合いをまとめました。

図2 赴任先の特徴とストレス度

 図2の言語と教育に関してですが、英語圏でしたら子女の教育を現地校で受けさせ、日本語については、土曜の日本語補習校で受けさせることができます。最近は、企業が帯同する子女の教育費を払ってくれない場合もありますので、その場合でも、子女の教育費はあまりかからないですみます。また、現地の公立校でしたら、英語の壁はありますが、発達障害等の特別支援も受けることができます。

 非英語圏の場合、ほとんどの国では子女の教育は、全日制の日本語学校で受けさせることになり、その場合は授業料が年間100万円〜200万円かかります。企業が負担してくれない場合、日本に配偶者と子女を置いていかざるを得ない従業員もいます。また、全日制の日本語学校は、私立校ですので、財政上、発達障害などの特別支援教育は提供できない場合がほとんどです。

 また、日本語の通じる医師がいるかということもストレスに影響を及ぼす要因です。医師に関しては、通訳を入れれば、内科、外科など治療は可能ですが、精神科等のメンタルヘルス疾患に関しては、日本人の医師に直接相談したいというニーズがあります。また、手術が必要な疾患にかかった時に、盲腸などシンプルな手術であっても、医療のレベルが違うために、現地の病院にはかかりたくないという国も多々あります。そのような国では、手術のための帰国、あるいは、近隣の医療レベルの高い都市(シンガポール、タイのバンコク等)に患者を輸送して手術ということになります。健康保険の問題もあります。企業にしてみると、国民皆保険制度が赴任先の国にあるのであれば、それに加入すれば大丈夫と思いがちですが、国民皆保険で行かれる病院は現地の人々で長蛇の列で、また、医療の質も低いという場合があります。

 次に、日本の物や食品が手に入りやすいかという課題があります。アジアの各国では、いわゆる日本の大手スーパーが進出しているため、企業の本国人事は、問題ないと思われがちですが、実は、和食は日本の値段の2.5倍〜3倍するという場合があり、家計に影響があります。その国の物価が日本より安いからといって、和食まで安いというわけではないのです。

 表には入れませんでしたが、大気汚染や気温の高さなどの環境の悪さもストレスの原因になります。大気汚染がひどい国では、子女が運動会をできない、あるいは、サッカーや野球をできないことによって体力が下がるという問題があります。また、常に気温が高く暑い国では、熱中症がでるので、外で運動させられないなどの問題があります。

 

3.赴任者とその家族のレジリエンス力を高める方法/さいごに

はじめに/1.海外赴任者の心理的サイクル
2.赴任者のストレスの特徴
3.赴任者とその家族のレジリエンス力を高める方法/さいごに

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