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こころの健康シリーズ[ 国際化の進展とメンタルヘルス

No.2 海外駐在員と家族のレジリエンス

一般社団法人 国際EAP協会 理事長 市川佳居


3.赴任者とその家族のレジリエンス力を高める方法

 海外赴任を成功させるには、新しい環境、変化、多様な状況に対応する力が必要です。新しい環境に柔軟、かつ最適に適応する力は、「レジリエンス」と呼ばれています。筆者はここ数年、海外赴任者とその家族に、赴任前、赴任中にコーチングを行って、その中でレジリエンス力を向上してもらっています。ここではそのレジリエンスについて少し解説します。

 レジリエンス(resilience)とはしなやかな強さ、精神的回復力、復元力などとも訳され、挫折や苦境から回復する力のことです。海外赴任中は特に、いつ降りかかるかもしれぬ想定外の出来事に対し冷静に対処すること、新しい環境、変化、多様な状況に対してしなやかに対応できる力が必要です。レジリエンスは、「自分の軸」「しなやかな思考」「対応力」「人とのつながり」「セルフコントロール」「ライフスタイル」の6つの要素に分けられます(図3)。それは本来、誰にも備わっているものですが、人によって強みはそれぞれです。

 1番目の「自分の軸」とは価値観や自分にとって大切なことを指します。人生においては様々な局面で選択を迫られますが、自分にとって何が大切か分かっていれば行動がぶれることはありません。家族が何よりも大事だという方は、海外赴任中も家族との時間を大事にするため、家族が現地生活に慣れることができ、その後はご自分も安心して仕事に専念できます。2番目の「しなやかな思考」は自分とは違う考え方を受け入れることです。海外にいると、文化の違いから、時間感覚の違い、品質への期待感の違い、食べ物の好みの違い、宗教の違いなど、日々、自分とは違う考え方、感じ方を受け入れることが要求されます。オープンマインドで、自分とは違う考え方を聴くことができる力が必要です。3番目の「対応力」は、いま自分にできることは何か、プライオリティをつけることです。海外に出ると特に自分でコントロールできる部分とできない部分とがあり、コントロールできる部分は行動をとることで達成度を高められ、できない部分では行動を無理に変えようとしないで、現地の方法を受け入れることが賢明な判断である場合が多々あります。4番めとして、世の中には1人では解決できない問題も多く、他人に助けを求める、あるいは逆に他人に救いの手を差し伸べる、「人とのつながり」があげられます。現地の人、駐在員同志で、助け合う関係を持てること重要です。ただ、人間関係が密接になると、傷ついたり、イライラしたりすることはままあるもので、自分の感情をコントロールする力、5番目の「セルフコントロール」が必要になります。アジアに赴任中の社員がヨガを学んで感情をクールダウンさせるスキルを学んだということもよく聞きます。そして、体力がないと困難は乗り切れないものです。それにはバランスのとれた食事、運動、睡眠によって、心身ともに健康を保つ「ライフスタイル」が欠かせません。お酒はほどほどにし、週末には家族とスポーツやミニ旅行などをしてリフレッシュし、身体を整えておくことが必要です。

図3 レジリエンスの6つの要素

©レジリエ研究所(英語版.PositiveLives社)

ここで、ご参考までに、著者が今まで赴任者へのカウンセリングや研修をしている中で作った海外赴任成功の十か条を紹介します。

  1. 異文化適応サイクル(図1)を理解し、健康な人間の正常な反応だととらえる。
  2. 海外赴任中に人間的に成長するための仕事以外の個人的目標を持つ。
  3. 家族の成功は自分の成功と思って、配慮する。
  4. 駐在日系コミュニティはともすると密になりすぎるが困ったときに助け合うことが役立つので、上手に活用する。
  5. 自分の駐在は現地社員にとっても一大イベントであることを理解し、現地の社員に配慮する。
  6. 邦人上司・部下との関係は日本よりも親密なので、お互い適度の距離を保とう。
  7. 駐在中は、飲酒量が増加したり、食事が偏ったりするので、日常生活に配慮する。
  8. 海外で頼りになるのは家族なので、家族との時間を大切にする。
  9. 日本とのコネクションも大切にする。インターネットで日本の情報が入手できても時には日本の仲間と生の声で話そう。
  10. 自分を落ち着かせリラックスする方法を持つ。嫌になったときに自分を奮い立たせる言葉を持っておく。

さいごに

 いろいろと苦労のある海外赴任生活を乗り越えて、多くの方が健康に、人間的にも成長していただけることがわが国のグローバル化につながると思います。企業として、赴任者が仕事がしやすい環境を整えるにあたって、健康保険、子女の教育など赴任者とその家族の生活者としての面にも配慮が必要です。また、赴任をされる方やご家族は、教育、医療について、所属する企業の福利厚生サービスをよく理解し、しっかりと準備してから渡航し、何か想定外のことが起きたときには、臨機応変対応できる力であるレジリエンスをつけておくことが大切だと思います。

 

参考文献

  • Kalervo Oberg  July 1, 1960. Cultural Shock: Adjustment to New Cultural Environments. Practical Anthropology 7:177-182.

参考サイト

  • JAMSNET東京<http://www.jamsnettokyo.org/>
  • 日本渡航医学会<http://jstah.umin.jp/>
  • Group With<http://groupwith.info/htdocs/index.php>
  • 多文化精神医学会<http://www.jstp.net/>

はじめに/1.海外赴任者の心理的サイクル
2.赴任者のストレスの特徴
3.赴任者とその家族のレジリエンス力を高める方法/さいごに

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