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心と社会 No.100 31巻2号
100号記念座談会
−日本の精神保健 過去・現在・未来−

 


6.精神医療従事者の教育と訓練


【小峯】そのような問題が起こったのは、準備不足だったのでしょうか。精神科医、その他の精神医療従事者に対する教育や訓練のシステムがわが国ではどうなんでしょうか。

【西園】そういう準備も何もない、教育もしない。それでただ箱をつくる、それでなんとかするというのは日本人の特性ですよね(笑)。いま社会復帰の施設というのはあちらこちらでできているけれども、それの訓練を……。

【加藤(正)】本当の精神医療の教育ができていないんですね。

【西園】ええ、しないでデイケアをやっている。デイケアにしても、そこへ患者さんが来ている。来てデイケアのプログラムに参加する人がいれば参加させてもらうけれども、来るだけで何もしないでじっとしていても、何もしない人にどういう働きかけをするかという視点がないです。それがないのは精神科医がそれに加わらないからです。精神科医は病棟の中にいて、デイケアのほうの責任者にはなっているけれども、チーム医療といったようなことは何もしないし、できないんです。日本の精神科医でチーム医療を本当にやれているところというのは非常に珍しいですね。

【浅井】先生がおっしゃったように、デイケアと日本でいうけれども、欧米ではむしろデイホスピタル(昼間病院)であり、パーシャルホスピタリゼーション(部分入院)なわけですね。社会の中に住む場所を置いて一定のプログラムでリハビリをすすめる。そういう発想があればもっとデイケアは普及します。例えば障害者プランでたった 1,000ヶ所ですよね。実際は 2,000ヶ所とか 3,000ヶ所ぐらい必要だと思うし、先生がおっしゃるような治療プランがあるのが、まさにデイホスピタルであり、パーシャルホスピタリゼーションになるべきなので、そこが非常に誤解されていますね。

【西園】急性期病棟とかいうのがあちらこちらにできていますね。それで「3か月で退院させろ」といっているけれども、うまく退院させたのは70%ぐらいだろうと思うんですけれども。退院した人ですぐ悪くなるのがいる。また入院してくる。

【加藤(正)】回転ドアなんですよ。

【西園】そうなんです。そこもデイホスピタルが必要なんですよ。いま日本でデイケアといっているのは、古い慢性の患者さんの社会復帰。けれども初期の患者さんの社会復帰するデイホスピタルという、これが日本に今まで発展しない。それには絶対に精神科医がそこにいて診断とチーム医療の要にならなければいけないんだけれども、それをしない。

【浅井】ですから、いまのデイケアは長期在院の後始末をしているんですね。いきなり社会復帰できないからそこでトレーニングして、要するにポストホスピタルケアであって、本来のデイケアというのはプレホスピタルであって24時間入院を避けるために、入院の代替策としてのプレホスピタルケア機能を果たすべきなのです。また再入院防止機能としてのデイケアも重要です。西園先生方がいろいろとやっていらっしゃって、デイケア学会でもそういう問題が出始めたようですけれども、入院の後始末の社会適応のための場であるという位置づけが強すぎては問題です。

【西園】そういうことに対する教育をするという視点がない場合に、何か施設さえつくればよいと。その中身はどうするといったことが日本の場合ないんですね。ですから、その目標とストラテジーがあまりはっきりしない、それが日本人の特性ですよね。

【加藤(正)】なぜでしょうね。それは施設ができても形骸だけができてしまって、治療やリハビリテーションが中心になっていない。

【西園】それは教育ですよ。日本の大学はいま80ありますが、精神科の病床は少ないところで20床、多いところで90床ぐらいですから大部分が40床以下。それにさまざまな患者さんを入れなければいけないんですよ。国立大学にはサイコロジストもいなければPSWもいない、ソーシャルワーカー、OTもいない。そういったところではチーム医療なんて訓練できないですよ。

 研修医の90%近くが最初の2年間、そこで勉強しているのですから。もう、身体がそういうコ・メディカルの人と、ちゃんと話し合って患者のそばにいてという訓練を受けていませんから。日本の医療の場合は、精神科医のパフォーマンスがきわめて問題だろうと思うんです。

【加藤(正)】「日本社会の家族的構造」もあると思います。欧米の文化が入ってきて、日本の科学はとても進歩したけれども、どうしてその社会構造が変わらなかったのかという問題です。今までの100年間の歴史の中で、ですから「日本人たるの不幸」ということが、他の領域でも多いのではないかと思います。アメリカだって経済主体の精神病院がほとんどで、会社が経営しているわけでしょう。保険会社が支配しているわけですよね。なのに日本では、皆保険でありながら日本的経済主義になってしまうんですかね。日本的経済主義というものはあまりよい意味ではなく、それが精神医療100年の歴史ではないですか。精神医療が経済至上主義になり、職員を教育しないで施設だけつくっている。

【西園】いや、日本の文化でしょうけれども、特に日本の場合は人のために尽くすという経験を若いときには何もしないですからね。戦後、日本人は医学部へ入る学生諸君にしても、どこで人のために尽くすというのを身につけるか、あまりつける機会がないでしょう。

【徳田】先ほど、西園先生がおっしゃった中にあったのですけれども、本当に教育というか医学教育ばかりではなくて、いろいろな治療的なかかわり方に関しても、それに対する教育というものがあらゆる面でないですよね。それで非治療者みたいな精神病院長がその中で政治的に支配していて、そのあとの連中はその指揮下にいるから結局は教育されていないわけです。自分だけで一人で成長していくという過程しかないわけですね。ですから、本当に日本の今の現状を見ると教育というのが必要だなと思いますね。それを有効にディフューズにしないといけない。

【加藤(正)】どうしてそういう形にならないのか。かつて前近代的な家父長制があって、家長はトップとしての絶対権限を持っている時代があったわけですね。それは民法を改正するまであったわけです。依然として日本社会のそういう家族的な構造があるんじゃないですか。川島武宜が昔書きましたね。しかし、あれは民法改正とともに、あの本はいらなくなったわけですけれども、議員にも官僚にもヤクザ一家的なものが残っていると思います。

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続く

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