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心と社会 No.100 31巻2号
100号記念座談会
−日本の精神保健 過去・現在・未来−

 


8.精神障害者と家族制度


【加藤(正)】家族制度の問題は、メンタルヘルスのもとの考え方の大事なところにあると思うのです。西園先生は九州を非常によく知っていらっしゃるんだけれども、西高東低といって昔から九州に精神病院が多いですね。あれを家族制度から分析した社会学者がいるんですが、九州のほうが家族のあり方が小型に分散しているためということですか。

【西園】そうです。

【加藤(正)】東北の方が拡大家族が多いので、障害者をかかえるだけの余裕があり、そのために精神病床が少なく、西高東低になったという説がありますが。

【西園】それは農業社会のときに九州というのは小さい田んぼで生活できていたわけです。せっせと働けば拡大できるわけです。それだけに緊張と競争が非常に激しかったから、いまでもそういうことになるわけです。それで病気になったら「親戚の者の世話なんかならん」といって病院にじっといるのです。それが九州に病床数が多い理由の一つ。ところが東北になると、大きな地主の下に衛星の家があるのです。ですから安定しているわけです。そのコミュニティの中で皆面倒をみようということがあるから、精神病院で症状がおさまったら連れて帰ろうと、こういう違いがあるわけです。それはつきものさえ、キツネつきとか何とかのつき方さえ東北と西南部は違うのです。

【加藤(正)】それの逆の場合が韓国で、保険医療制度というものができなくて、公費で入っている人は半年で切られてしまうわけです。

【浅井】そうですね、精神障害者の入院治療は3ヶ月しか保険でカバーされません。

【加藤(正)】皆そこを追い出されて家の前まで連れてきて、置いていってしまうわけです。それで家族はどうするかというと、キムさん、パクさんの一家で小屋を造ってそこへ入れてしまう。キムさんていろいろいますから、なんとか村のキムさんたちの家をつくって入れてしまうと、ほとんどが全閉鎖。私は見に行ったのですけれども……。

【西園】ノンメディカル・インスティテューション。

【加藤(正)】そうです。そのほうが病院の数より多いのです。それを議会で「病院にしろ」といって、新しい病院をずいぶん努力して建てているようです。

【西園】韓国の精神保健法が日本のを参考にしてできましたね。それで、今のノンメディカル・インスティテューションが、そのようなことをしてはいけないことになっていますね。

【加藤(正)】日本では、一家が集まって小舎をつくったということはまずないですからね。ですから、そこが違いますね。

【西園】それは向こうはそのような本貫と称する大家族制度の中で儒教の世界ですから。

【加藤(正)】ですから、大家族ということは東北と似ているんでしょう。そういったことから入っていかないと、私はただメンタルヘルスといっていても本当のメンタルヘルスは出てこないと思うのです。1次予防だけでなく2次、3次の中のメンタルヘルスもやっていかないと、日本のメンタルヘルスといってもとてもじゃないです。私自身もそういつまでも生きていられないから、一生の間に見られるかもしれないと思いながらも楽しみにしているんですけれども(笑)、なかなかどうしてそんな甘いものではないらしいですね。

【西園】しかし、いま日本の家庭が昔のようなものでなくなって壊れてしまっている。例を電話の普及にとると、昔は会社や学校とかに普及していた。そのうち家庭に普及して電話というのは家が使うものになった。それがいま個人になってしまっているでしょう。もう家庭というものはなくなってしまって個人の関係になっているんですよ。それが象徴するように家というものもどうなるのか。そのあとの次のメンタルヘルスというのは、もう家というのは抜きにして個人をどうするという時代になる可能性が大きいでしょう。そうしたときにどうしますかね。

 今でも町には精神保健クリニックがものすごく増えていますね。東京などは精神科のクリニックでは足りなくてというか、そちらにはあまり行かないでサイコロジストのカウンセリングをする場所というのがすごく増えているでしょう。そこでは保険では効かないのですから自分で金を払って行っている。「こういう話を聞いてくれ」というニーズが大変に増えてきていると思います。そういうものに精神保健がどうかかわるのか、精神科医がどのようにそれに対して対応するのかというのが問われるのではないでしょうか。

【加藤(正)】アメリカの心理学会が「処方箋を書かせろ」と精神医学会(APA)に要求しましたね。APAは拒否しましたが。さらに、「軍隊にいるサイコロジストだけは処方を認めろ」とまだやっているそうです。こういうことがだんだん日本にも押し寄せてきませんかね。

 ですから、われわれもうっかりしていると大事な患者を他科やコ・メディカルにとられるかも知れない(笑)。心療内科へは行くけれども精神科へ行かないという患者さんがいますからね。

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続く

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