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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

11 女性の貧困とメンタルヘルス

立命館大学産業社会学部
丸山里美

 

はじめに

 近年、女性の貧困が注目されるようになってきている。子どもの貧困が社会的関心を集めるなかで、シングルマザーの生活実態についても頻繁に報道がなされるようになり、2011年には、勤労世代の単身女性の3人に1人が貧困であるという記事が新聞の一面をかざったi

 私はこれまで、ホームレスの女性たち(路上生活者だけではなく、施設などに一時的に滞在する広い意味でのホームレスの人も含む)を中心に、女性の貧困に関する社会学的研究を行ってきた。本稿ではその立場から、女性の貧困をめぐる最近の状況と、そこから見えるメンタルヘルスの課題についてお伝えしたい。

なぜ女性は貧困なのか

 2012年に厚生労働省が発表した日本の貧困率は16.1%であり、他の先進諸国と比べても、高いことが知られている。この貧困率を男女別でみると、男性は14.4%、女性は17.4%と、女性の方がより貧困であることがわかるii

 ではなぜ、女性はより貧困なのだろうか。これに一言で答えるとすれば、性別役割分業が社会システムに組み込まれているからということに尽きる。労働や社会保障のあり方が、男性が稼ぎ主で女性は家事をおもにする標準的な家族を前提にしており、それゆえ女性の労働は不安定で低賃金なものがほとんどになってきたこと、これが女性の貧困問題の核心である。

 戦後日本の社会では、家族内に男性稼ぎ主がおり、未婚女性は父親に、既婚女性は夫に扶養されているのが標準的な家族の形であった。それゆえ女性が自ら働いて経済的に自立することはほとんど想定されておらず、未婚女性の場合は親の収入、既婚女性の場合は正社員もしくは自営業の夫の収入によって、生活基盤は維持されていると考えられていた。社会保障制度もこの前提に立って設計され、妻が夫に扶養される形の標準的な家族が優遇されてきた。

 その結果、就労率は、男性は81.6%であるのに対し、女性は64.4%と低く、そのうち非正規雇用者の割合は、男性は22.3%であるのに対して女性は57.2%と、女性は無業であったり、不安定な雇用形態が多いことがわかるiii。賃金は、男性の一般労働者を100としたとき、女性の一般労働者で70.9、女性の短時間労働者だと50.5であるiv。つまり女性の賃金は低く、女性の労働者の約半数を占める短時間労働者だと、男性の一般労働者の半分の賃金しかないことになる。したがって、性別役割分業が制度化された社会のなかでは、女性は男性に比べて、無職だったり、働いていても低賃金不安定労働であることが多く、より貧困に陥りやすいのである。

 

2.どんな女性が貧困に陥りやすいか

1.はじめに/なぜ女性は貧困なのか
2.どんな女性が貧困に陥りやすいか
3.見えにくい女性の貧困/女性は貧困にすらなれない?
4.もやいの女性相談者から見えるメンタルヘルスの問題/おわりに

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