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こころの健康シリーズZ 21世紀のメンタルへルス

No.7 インターネットを活用した簡易型認知行動療法による職域メンタルヘルス支援

加藤典子 1)2) 宇都宮健輔 1)3)
1)国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター
2)慶應義塾大学医学部 精神神経科学教室
3)産業医科大学医学部精神医学教室


はじめに

 連日、職場ストレスによる過労自殺など労働環境のニュースが報道され、労働者のメンタルヘルスに関する問題が注目を集めています。職場のストレスは、一部の労働者や企業に限定された問題ではありません。厚生労働省による平成28年度の労働安全衛生調査では、「現在の仕事や職業生活に関することで強いストレスとなっていると感じる事柄がある」と回答した労働者は59.5%にのぼり、労働者の5人に3人が仕事のストレスを抱えていることが示されています。さらに、職場のストレスに起因する自殺を含む精神障害の労災請求件数は、近年、増加の一途を辿っています(平成24年度 1257件→平成28年度 1586件)。

 私たちは、これまで精神医療の現場においてうつ病に代表されるメンタルヘルス不調で休職をされた方々の治療に携わり、回復して復職した後にもう一度調子を崩して再休職をされる方に何度もお会いしてきました。また、企業において、ストレスを抱えて不調に陥る方にもお会いしてきました。それらの経験から、復職後の再発予防や、ストレスを抱えた人に対する早期のメンタルヘルス不調の予防を目的として、職場で実施できる支援の確立が重要だと考えるようになりました。

 そこで、私たちは職域におけるメンタルヘルス不調の予防を目的として、労働者のセルフケアスキルを向上させるための簡易型認知行動療法プログラムを開発しました。1つはメンタルヘルス不調による休職から職場復帰した後の労働者を対象としたもので、もう1つは職場においてストレスを感じている労働者を対象としています。ここでは、その2つのプログラムの基本的な考え方と内容をご紹介したいと思います。


職場復帰後の労働者に対する支援の現状

 メンタルヘルス不調とは、「精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むもの」と広く定義されています。一方、日本の企業でメンタルヘルス不調で休職している労働者に対する調査において、8割程度の人がうつ病あるいはうつ症状を含む適応障害の診断で休職していたとの報告があります1)。そこで、ここでは主にうつ病による休職を中心にお話をしたいと思います。

 うつ病は再発率が高い疾患であり、1回うつ病を経験した人の約半数、2回うつ病を経験した人の60%、3回うつ病を経験した人の90%が再発するといわれています2)。さらに、うつ病に代表される精神疾患により休職した人の20%から50%が再休職をしており、その半数以上が3年以内に再休職に至っていることを示すデータもあります3-4)。うつ病による休職者の再発・再休職率は非常に高く、職場復帰直後の労働者に対しては、特に重点的に支援を行う必要があると考えられます。

 それでは、現在の日本における、うつ病による休職から職場復帰する労働者に対する支援を整理してみましょう。まず、重要な支援の1つとして、うつ病治療の継続が挙げられます。わが国の精神科におけるうつ病の治療は薬物療法を主体としています。うつ病の薬物療法は症状が軽減してからも、再発予防のためにしばらく継続することが推奨されているため、多くの労働者は職場復帰後も治療を受け続けています。それに加えて、多くの職場で、労働者が安定して勤務できるようになるまで業務の負荷を軽減する措置が実施されています。この措置は、主治医の意見を参考にして、職場の人事担当者や上司、産業保健スタッフによって実施されます。例えば、休日出勤や残業を制限したり、責任ある業務の担当をする前に補助的な業務を担当させることでリハビリをさせたりすることがこれに当たります。医療機関における治療と職場環境の調整の2つが、職場復帰後の労働者が受けている現状の主な支援であると言えるでしょう。

ストレスチェック制度における高ストレス者に対する支援/4つのケアと現状の2つの支援

はじめに/職場復帰後の労働者に対する支援の現状
ストレスチェック制度における高ストレス者に対する支援/4つのケアと現状の2つの支援
簡易型認知行動療法とは/2つの簡易型認知行動療法プログラム/終わりに

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