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こころの健康シリーズ[ 国際化の進展とメンタルヘルス

No.5 日本語を母語としない人たちの精神科診療

四谷ゆいクリニック 阿部 裕

はじめに

 私が日本語を母語としない外国人に積極的に関わるようになって、ほぼ30年近くが経過しようとしている。30年前の今頃は、コロナウィルス感染で大変な状況になっているマドリードに住み、スペインの総合病院の精神科で研修を積んでいた。最初の面接ケースが、スペインの軍人であった。最初からべらべらと早口にしゃべり、しかも内容が軍に関わる用語だったので、ほとんど理解することは不可能だった。その体験から、こころを聴くには何があっても言葉だと実感した。

 一年後帰国し、当時勤務していた栃木県の大学病院で外来を始めると、日系ラテンアメリカ人が突然外来を受診するようになった。日本の文化や習慣への不適応、あるいは職場への不適応のためだった。留学中に日本での入管法が改正され、自由に入国可能になった日系人労働者が、私を全く予想しなかった、スペイン語の精神科臨床へと無理やり引きずり込んだ。これを期に日本語を母語としない人たちのこころの支援に巻き込まれていった。

多文化こころのクリニック

 2006年3月初め、イグナチオ教会の鐘の音の聞こえる四ツ谷に、外国人のための小さな精神科クリニックを開院した。とはいうものの、最初から外国人ばかりが来るはずもなく、多文化診療を志す先生とともに日本人も診察していた。最初は外国人が来院してくるというだけで構えてしまう外来診療であったが、それもいつの間にか慣れていった。それでも最初の頃は、カルテの表紙に、日、英、西、葡という丸に囲まれた文字が示されていた。こうして、日本語の通じない患者の診療は始められたのであるが、それにはかなりの準備が必要であった。問診票を多言語で作ること、受付の案内表示を多言語で行うこと、だがそれ以上に重要なのはクリニックのスタッフに多言語・多文化になれてもらう事であった。まず、メジャーな言語の電話であれば、スタッフの誰かが対応できたが、何語か分からない場合には、やさしい日本語で対応し、できるだけ専門の通訳に同行してもらうように頼んだ。

 駅からクリニックまで、6、7分で一本道なのであるが、初診の患者がクリニックまでたどり着くのが意外と大変なのである。日本語であっても外国語であっても、受付の道案内は大変のようである。受付に着いたら、保険証を確認し、無保険の方にはそれなりの説明が必要であった。問診票に記載を頼むが、書くことに難渋する人も多く、場合によってはスタッフが書き込むのを手伝った。

 

多文化診察

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