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心と社会 No.138 40巻4号
巻頭言

地方の中核都市における自殺防止活動

星野 命
(金沢こころの電話 相談役/国際基督教大学名誉教授)

本年9月10日は世界保健機関(WHO)が提唱した「世界自殺予防デー」であった。日本の内閣府は、9月10日から16日までを「自殺予防週間」と定め、全国の都道府県に啓発活動に力を注ぐように求めた。

これより先、昨年秋に中部九県と名古屋市は、「自殺予防統一標語」として、「支え合う温かい手が すぐ側に」を選んだが、ちなみにこれの作者は、石川県在住の下谷真知さんだった(新聞報道による)。

石川県では、本年4月に厚生労働省社会援護局からの通達を受けて、「自殺防止対策事業の推進」をはかるために、民間団体の活動に対する支援(経費補助)に応募するよう、既にボランティアによる自殺予防活動を行なってきた法人格を有する団体に呼びかけた。。

この事業には、(1)全国事業と(2)先駆事業の二種があり、他の都道府県と政令都市における法人格を有する民間団体事業計画が所在地の自治体の「自殺防止管理課」の推薦を受けていることが必要であった。

筆者が所属する「金沢こころの電話」は、1976年(昭和51年)の設立以来33年間、地域の人々のさまざまな訴え・悩みを受信してきた。31年目(2006年度)には、10,000件を超えた。そのうち実際の相談は、6,802件で、人生問題がトップで約2,000件あり、その中で「希死・自殺念慮」「孤独・人生の不安」が深刻な様相(増加)をみせている。また、「保健・精神衛生」も毎年1,000件近く(2007年度は1,223件に増加)あった。

そこで、前記の「先駆事業」への財政支援に応募することにして、会長以下三役と相談役とで事業計画を練った。

自殺予防の方法としては、病気の場合の基本、一次予防、二次予防、三次予防という考え方にならえば、一次予防としては、地域の精神保健活動の推進、自殺予防のための啓発活動を地域や職場・学校などのさまざまな領域で展開することであり、二次予防は、自殺に傾いている人に早期に気づき、自殺が起こらないように積極的に関与(介入)し、支援や治療を行うこと(自殺を何とか食い止めること)である。三次予防には、不幸にも自殺が生じた後の遺族への対応(支援やケア)と事後の連鎖や群発を防ぐなどが含まれる。

「金沢こころの電話」では、これまでに相談ボランティアの継続研修の一部で、自殺防止活動の経験者の講演や「ホット・スポット」と呼ばれる多発現場の1つである福井県の東尋坊で見まわりを続けてきた茂幸雄氏を招いて、その熱心な活動の報告を聞いたり、仲間と語らって現地での見学を実施してきた。

しかし、他県(東北諸県や新潟県など)の市町村で行われてきたすぐれた自殺防止対策や、首都圏でも始まっている対策事業をお手本にする状況にはないので、独自の事業を計画した。それには次の4つをもって、新しい取り組み『こころといのちの絆回復事業』の内容としたのである。

1.新規の電話相談時間帯の追加。これまでの毎週月曜〜金曜18:00−21:00に2時間を加えて18:00−23:00までの延長

2.地域にいる保健・福祉・生活問題への相談対応・支援をしている実務担当者(ゲートキーパー)に、相談の基本(受容・傾聴・共感・対応)の再学習と、スキルアップ研修会の実施(専門家による講演、事例検討、フォーラム、長時間のワークショップ(相互援助グループ)など) 

3.自殺予防に関して市民(約800名)に対するアンケートの実施

4.石川県内3地区(金沢、加賀、能登)の、それぞれ2カ所への「出前講座」

これらの事業をもって単年度中ではあるが、自殺予防に少しでも強い地域づくりにつなげようとした。

幸いにも、この事業計画は石川県の当局の評価を受け、支援対象に選ばれ、約190万円の補助金の内示を受けた。

そして、実行委員長には「金沢こころの電話」の相談ボランティアを長年続け、現在金沢市内の児童福祉施設長に就任している会長(社団法人「金沢こころの電話」代表理事)が就任し、4つの小委員会に、三役・相談役・理事ら会員計15名が分担配置された。

筆者は、上記の2番目の事業の小委に属して、研修会の目的・日程・講師の選定と委嘱を担当することになったが地方には「自殺予防学」の専門家は少なく、精神保健福祉分野と心理臨床分野で自殺予防活動に見識と体験を兼ね備えた人材も決して多くないことに気づいている。ある医師は「精神科医ひとりでは、自殺防止は無理」と言い、臨床心理士の数人が「孤独な人、不安をかかえている人には『音楽療法』が有効だ」として取り組んでいることなどを知ってはいるが、この事業には異なる業種の人々の多様な経験を生かすコラボレーション(連携・協働)が不可欠なことを痛感している。筆者は、その必要を下記の新書から学んだ。これは関係者の「必読書」※注)だと信じて、仲間の委員にすすめている。

※注)『自殺予防学』(新潮新書)河西千秋著、新潮社刊(定価本体1,100円、税別)


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