ご挨拶日本精神衛生会とはご入会のご案内資料室本会の主な刊行物リンク集行事予定
当会刊行物販売のご案内

心と社会 No.203 2026
巻頭言

アジア精神医学会
─アジアから新しい精神医学の潮流を─

新福尚隆
神戸大学名誉教授

 アジア精神医学会(Asian Federation of Psychiatric Associations:AFPA)は、アジア地域における精神医学の発展と、各国間の連携を目的として設立された国際組織です。現在、アセアン諸国、東アジア、南アジア、西アジア、中央アジア、オセアニア地域の27の国と地域の精神医学会が加盟しており、日本精神神経学会もその一員です。精神医学会が存在しない国に対しては、専門家団体の設立支援も行っています。AFPAの誕生には、2002年に横浜で開催された世界精神医学会(WPA:World Psychiatric Association)第12回WCP(World Congress of Psychiatry)が深く関わっています。この大会には6,000名を超える参加者が集い、日本の精神科医にとって国際的な交流を再び活発化させる契機となりました。会議の中で、アジアにおける研究や教育の連携の枠組みをつくることが提案され、これがAFPA構想の始まりとなりました。

 当時、ヨーロッパやアメリカには地域連合の精神医学会がありましたが、アジアにはそのような組織が存在していませんでした。横浜学会で採択された「横浜宣言」では、日本精神神経学会がアジア諸国との連携を深めることが明記され、3年後の2005年、エジプト・カイロで開催された第13回WCPでAFPAの設立が正式に動き出しました。この会議では推薦により会長と事務局長が選出され、AFPAの区域を東アジア、東南アジア、南アジア、西アジアの4つの地域に分け、2年ごとに各地域でアジア精神医学会世界大会を開催することが決定されました。

 2007年は、AFPAにとって記念すべき年となりました。7月にパキスタンのラホールで発会式が開催され、世界精神医学会、世界精神衛生連盟、世界心理社会リハビリテーション学会、アメリカ精神医学会、英国精神医学会、インド精神医学会など、精神医学分野の主要な国際組織や各国の学会が参加しました。AFPAの誕生が待ち望まれていたこと、そしてその発足が広く歓迎されていることを実感しました。

 アジアの多くの国々は長い間ヨーロッパの植民地であり、精神医学も欧州の影響下にありました。たとえばインド、パキスタン、シンガポール、マレーシアでは、精神科専門医の資格を得るために英国に留学する必要がありました。そのため、アジア精神医学会の発足は「植民地としての精神医学」からの独立を象徴する出来事でもありました。AFPA初代事務局長のAfzal Javed氏(パキスタン出身・英国在住)は、その後AFPA会長、さらにWPA会長を務めました。

 2007年10月、インド・ゴアで第1回アジア精神医学会が開催され、南アジアを中心に400名以上が参加しました。日本からの参加者はごくわずかでした。続く第2回大会(2009年・台北)は、台湾精神医学会の全面的支援により900名を超える内外からの参加者を集め、台湾で開催された精神医学分野の国際大会としては最大規模のものとなりました。これを契機に、台湾精神医学会はAFPAの会報の発行や、AFPAおよびWPAの国際的活動を積極的に支援するようになりました。

 第3回大会(2011年・メルボルン)では運営上の対立もありましたが、2013年の第4回大会(バンコク)では体制を立て直し、1,400名を超える参加者のもとで学会としての規約が制定されました。このときの執行理事会では、アジア各国から20名以上の精神医学会の会長や代表が参加し、オーストラリア・ニュージーランド精神医学会(RANZCP)が正式に会員として迎え入れられました。オセアニア地域の精神医学会もAFPAに参加するようになりました。その後は順調に発展を続け、第5回大会(2015年・福岡)は九州大学の神庭重信教授を会長として開催されました。続く第6回(2017年・アラブ首長国連邦)、第7回(2019年・シドニー)と各国で開催され、アジアの精神医学界における重要な学術交流の場として定着しました。新型コロナウイルス感染症の流行の影響により、第8回大会(2021年・ムンバイ)はオンライン開催となりましたが、2022年のハイデラバード大会、第10回(2024年・バリ)と活動は継続しています。次回2026年には、北海道大学の加藤隆弘教授を大会長として、札幌での開催が予定されています。

 アジア精神医学会の目的は、アジアにおける精神医学・精神医療の質の向上と、各国間の相互理解の促進にあります。欧米中心の精神医学からの自立を目指し、アジアの文化や社会背景を踏まえた独自の精神医療モデルの確立に取り組んでいます。地域間の格差を超え、教育・研究・臨床の交流を通じて「アジアの中の多様性を力に変える」ことが、この学会の理念です。

 詳しい情報はアジア精神医学会(AFPA)のホームページをご覧ください。精神医学やメンタルヘルスの国際的な発展に関心のある方は、ぜひ私たちの活動にご参加ください。アジアの精神医学をより良いものにするために、皆様のご支援とご協力をお願いいたします。

 https://www.afpa.asia

 Excellence in Asian Psychiatry─共に、アジアの精神医学の未来を創りましょう。

 

ご挨拶 | 日本精神衛生会とは | ご入会の案内 | 資料室 | 本会の主な刊行物 | リンク集 | 行事予定