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NPO法人POSSE 代表 今野晴貴 はじめに 私はNPO法人「POSSE」の代表として、若者を中心に、2000件以上の労働相談にかかわってきた。非正規雇用の相談はこの半数弱を占めている。相談事例の中からは、近年、非正規雇用問題は大きな変化を遂げていることを伺うことができる。 従来から現在まで、非正規雇用の多数を占めるのは女性労働者であり、わけても「主婦パート」は圧倒的な最大多数を占めている。近年の変化とは、@この「主婦パート」以外のカテゴリーの増大と、A「主婦パート」の変化である。 また、労働相談からは現在の非正規雇用問題が、生活保護問題や正社員雇用の劣化と連続的な関係にあることも理解できる。もともと非正規雇用問題が正社員の雇用を脅かし、また生活保護への「入口」にあるとの認識は存在した。だが、近年の相談は、この正社員との競争、生活保護への「転落」の双方において、メンタルヘルス問題が介在していることに特徴がある。本稿では、非正規雇用実態を労働相談の実例から分析し、あるべき対策の姿を考察したい。 1、非正規雇用の広がりと変化 ・家計自立型非正規雇用=ワーキングプア 非正規雇用は歴史的に「縁辺労働」と呼ばれてきた。それは、「中心的労働」であるところの男性・正社員に対し、「主婦」や学生、出稼ぎ者などの家計を自立せず、雇用労働中心の生活に立てない人々が主な担い手だとされてきたからだ。非正規雇用、「縁辺労働」は男性・正社員の長期雇用を支えるために、低賃金・不安定を強いられる。彼らは「雇用の調節弁」とさえ、呼ばれた。 また、非正規雇用は「縁辺労働」であるために、基本的に家計補助的労働であることが想定される。このため彼らに合わせて日本の最低賃金は際立って低い。「家計の自立」が想定されていないためである。また、同じ理由から、日本の福祉は企業の正社員を中心に編成されているため、非正規雇用であると多くの制度から排除されてしまう。それでも、この労働が「家計の補助」である限りは、その差別性、脆弱性は顕在化しなかった。 逆に、これまで顕在化した非正規雇用の貧困問題は、「シングルマザー」の問題であった。このように、非正規問題は、女性差別問題としての性質が強かった。昨今の第一の変化とは、非正規雇用の担い手の中に「家計を自立する」労働者が、男女を問わず急速に増加しているということである。 派遣社員や契約社員(フルタイムの有期雇用)がそうした労働の典型である。それらは派遣村、生活保護との連続性がある。 ・トライアル雇用へ 第二の変化は、そうした「家計自立型」の非正規雇用が「トライアル」的な性格を持つようになってきたということだ。トライアル雇用とは、政府が推進する期限付きの雇用で、例えば半年間の雇用の後、使用者が必要だと判断すれば正社員雇用する。つまり、「お試し雇用」で正社員への「入口」を増やすというわけだ。 だが、もちろんすべてのトライアル非正規が正社員になれるわけではなく、そこでは過酷な選別競争が強いられている。POSSEに寄せられた相談の中には、「正社員並み」にサービス残業を強要されるという内容の相談もあった。 第三に、「主婦パート」そのものも、厳しい労働へと変化している。労働相談の中では、パートのシフトが使用者に勝手に決められ、私生活に支障をきたしているというものなどがみられる。 ・非正規雇用労働の過酷化と雇用システム 以上の三点からは、非正規雇用の「過酷化」の傾向を共通して読み取ることができるだろう。POSSEの労働相談では、非正規雇用労働であっても、長時間労働やパワーハラスメントの相談が、「雇い止め」や「低賃金」といった相談よりも多くなっている。 本来、非正規雇用であれば、低賃金・不安定である一方で、残業や勤務内容などは限定されているはずだ。だが、近年の非正規雇用の実態はこうした非正規雇用から変化しているのだ。 1.はじめに/非正規雇用の広がりと変化 |
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