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立教大学コミュニティ福祉学部福祉学科教授 湯澤直美 はじめに近年、日本における子どもの貧困問題が注目され、社会的に対応を要する政策課題として認知されるようになりました。2013年6月には、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が成立し、政府のみならず都道府県をはじめとする地方公共団体において、実態把握や計画策定が進められるようになっています。 このように、子どもの貧困問題に焦点があたるようになった背景のひとつには、2009年に政府によって公表された相対的貧困率によって、貧困がごく一部の人々の問題ではないことが認識された点にあります。その後、国民生活基礎調査(厚生労働省)において、 1985年まで遡って公表されたデータをみると、日本の子どもの相対的貧困率は1985年時点で10.9%でした。この当時より、すでに約9人に1人の子どもが貧困線未満の生活状況に置かれていたのです。相対的貧困率は徐々に悪化し、最新の統計である2012年調査では、子どもの貧困率は16.3%に達し、約6人に1人の子どもが該当するに至っています。むろん、相対的貧困率は世帯所得を基にして計測するひとつの手法であり、物質的な剥奪状況をはじめ、様々な手法を駆使して実態を可視化する必要があることはいうまでもありません。しかしながら、相対的貧困率は、OECD(経済協力開発機構)加盟国での比較が可能であることから、日本の現状を認識するうえで有効なツールのひとつであるといえるでしょう。 このように、政府によりデータが公表されるようになるなか、マスメディアをはじめとして注目をあびたのが、日本のひとり親世帯の貧困率の高さです。OECDが2014年に公表したデータによれば、OECD加盟国の平均では、「就労していないひとり親世帯」の貧困率は58.0%と高いものの、「就労しているひとり親世帯」の場合には20.9%にまで低減しています(2008年データ)。ところが、日本のひとり親世帯では、「就労していないひとり親世帯」の場合は50.4%とOECD平均よりやや低いものの、「就労しているひとり親世帯」の場合に貧困率はかえって微増し、50.9%という高さになるのです。これは、OECD平均よりも30ポイントも高い数値です。OECD加盟国中、就労しているひとり親の貧困率が50 %を超えている国は日本だけであり、最も高い貧困率となっています。 しかも、OECD加盟国と比較してみると、日本のひとり親世帯の就労率は最も高いほうに位置づいています。ちなみに、日本の母子世帯の就労率は、8割から9割の間で推移しており、子どものいる母親の就労率よりも常に高いのです。高就労率でありながらも貧困率も高く、日本のひとり親世帯はワーキング・プアの典型といえます。そこで、本稿では、日本のひとり親世帯の現況を概観し、どのような社会的対応が必要かを考えていきたいと思います。
1.はじめに |
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