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こころの健康シリーズ[ 国際化の進展とメンタルヘルス

No.10 大学生の留学時のメンタルヘルス ―日本から海外へ―

東京女子医科大学保健管理センター学生健康管理室 横田仁子


2.留学先によるメンタルヘルスの差異

1.地理的、文化的影響
 留学先は北米、欧州、アジアとなっているが、地理的、文化的に近い都市、多民族国家、国際都市、港町のほうが学生へのストレスは少なく、メンタルヘルスも保たれる傾向がある。本学においては、韓国、台湾、中国、ベルギー(ブリュッセル)、フランス(マルセイユ)、イギリス(カーディフ)、カナダ、アメリカの順である。ただし、北米でも受け入れ大学に日本人が在籍しているとストレスは軽減されている。

2.コミュニケーション言語
 留学先での実習の時のコミュニケーションはすべて英語であるが、アジア圏や、英語圏以外ではともに英語は第2言語であるため、対等な立場で意思疎通を取ることが可能で、その結果ストレスが少ない。母語を使わず、第2言語を使うため、簡易な単語を用いる、会話がゆっくり、聞き返しやすい、言葉の裏にある文化的意味を考えなくて済む利点がある。英語圏の場合は相手にとって母語であるため、相当な英語力を必要とされると同時にアメリカ英語、イギリス英語、オーストラリア英語と分化しているので発音も方言も異なる。アカデミアの分野(大学講義や学会)では主に英語教育に使われるオックスブリッジ英語を使うため比較的理解しやすく、ストレスも少ない。
 言語と文化は連動しているが、留学すると自分の性格が変わったように感じる。筆者は日本ではあまり窮屈と思っていなかったが、英語のレポートを書く時、主語をIにして自己主張できる自由さを実感した。しかし文章を日本語に訳して書く場合は、反感を恐れてここまで強調した文章は書けないと思った。英語を使う自分と、日本語を使う自分の性格が変わってよいのかと迷ったが、留学先の教師からそういうものだといわれ安心した経験がある。もしかしたら、学生も同様な気分を味わっているのかもしれない。
 また事前に、フランス、ベルギーに留学の学生にはフランス語講座があり、日常会話だけでも学んでおくと現地に行っても生活に溶け込めるようである。

3.食文化
 学生の報告会では、食生活に関する感想が多いので、学生にとっては食の充実は必須である。食生活では、近隣の台湾や韓国に留学した学生は非常に満足して、詳細な報告をする。また、フランスやベルギーで集団生活をして自炊をする学生は、マーケットでの買いもの風景や自分たちの食事風景を報告するので、充実した留学生活を送ることができたと安心する。アメリカ帰りの学生は単身で行くことが多く、あまり食に関してのコメントをしない。食事はたいていカフェテリアで済ませたと報告している。食にこだわりがない文化のようである。

4.ネット環境
 中国へ留学した学生からは、ネット環境が日本と異なること、使えるアプリケーションに制限があるので、前もって調査したとの報告があった。今の学生にとって、ネット環境は留学時のメンタルヘルスを保つのに重要なアイテムである。実際、ネットで日本の情報や家族との連絡が取れて、安心して留学生活を送ることができたと報告してくれた。この学生は、自分のメンタルヘルスを保つための対処法ができていたということになる。

5.個人か?集団か?
 留学先によっては受け入れが一人のところがある。この場合はタフな精神力と、語学力、社交性、交渉力、社会適応能力が必要とされる。留学が無事終了した報告会での自身に満ち溢れた、英語交じりの報告を聞くと、習得されたものの多さ、精神的成長を垣間見ることができる。一方、集団での留学の場合はどちらかというと観光ツアーのようで、ストレスや苦労が少ない分、精神成長面に関しては大きな変化が少ない場合もある。
 個人主義、集団主義という切り口で判断すると、やはり集団主義のアジア圏への留学は文化的に共通する部分があるのか、食の好みも似ているせいか、学生の反応は良いイメージをもって帰ってくる。

6.カルチャーショック
 カルチャーショックの報告や相談は少ない。
 留学中の行動範囲が実習先の病院と宿舎、および休日の観光で、範囲が狭く、病院の構造は万国共通であり、宿舎もホテル滞在慣れした学生には負担にならないようである。留学期間も2か月までなので、いわゆるなんでも物珍しい、ハネムーン期で帰国している影響もある。

 

3.帰国後の精神成長とアイデンティティーの再確認/まとめ

はじめに/1.留学の決定から準備段階
2.留学先によるメンタルヘルスの差異
3.帰国後の精神成長とアイデンティティーの再確認/まとめ

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