ご挨拶日本精神衛生会とはご入会のご案内資料室本会の主な刊行物リンク集行事予定
当会刊行物販売のご案内

こころの健康シリーズno.10

摂食障害

3/3 前のページ

4.拒食症と過食症の心理

 拒食は、それまでの自分の生き方がうまくいかなくなった状態で起こってきます。そのとき、自分が何もしないていれば、気分は落ち込み、無力感におそわれます。ダイエットにはげめば、「自分が自分のからだを思い通りにコントロールできる」という体験〜それはつかの間なのですが〜を通して、力感、存在感、達成感が生まれます。こうして自分のみじめさを感じなくすることが可能になります。痩せることはよいことだとする現代社会の風潮もこれに加勢してくれます。また、拒食を押し通すことによって、家庭内で中心的な位置を占めることができるようになり、症状をテコとして両親を思い通りに支配することも次第にできるようになります。拒食は傍目には悲惨ではあるけれども、上記のようないろいろな利点もあるため、当人は拒食をかんたんには手ばなすことはできないのです。

 過食の場合も、たとえ肥満することがあるとしても、肥満を恐れ、痩せを追求しています。過食は食べたい衝動に屈服したわけですが、嘔吐と下剤作用とは痩せる算段として役立っています。過食は苦しいばかりだと本人は申しますが、よく聞いてみますとそれは苦しいばかりではないのです。咽もとまで食物をつめこむ、そして思い切り吐く、下剤もたくさん飲んで腹痛をこらえつつ、何度もトイレに行く。

 これらは強い身体感覚を伴いますので、一種の快感を与えてくれるものでもあります。それに食べることに夢中になっているときは、さみしさ、むなしさ、くやしさといった当人にとって抱えておきたくないマイナスの感情が一挙に消え、われを忘れたような状態になれるのです。それゆえ、過食は自己流のストレス解消法でもあるのです。

 拒食にはしる人も過食に陥る人も自分にとってマイナスの感情(前記のむなしさや対人関係にまつわる失敗感など)がしつこくつきまとうといった人柄の特徴をもっています。痩せることに精を出すか、過食、嘔吐、下痢という手段に頼ると、一時的ではあっても、いやなマイナスの感情が消え、ひとごこちがつくのです。

 摂食障害者は、おしなべて外面がよく内面がひどく悪いとしたものです。もっとも発症前は、内面もよかったのですが。外では誰にでも合わせ、いやといえません。この外面のよさは「誰からもよく思われたい」という願いと、自己形成・自己主張の弱さとに由来しています。不自然によすぎる外面のために、心の中には、つねに人間関係にまつわる不安・不満がうっ積しています。それが家の中では母に向けて、はじけるのです。それは、度はずれた「八つ当たり」といってよいかもしれません。このため一見、母との間に争いが絶えません。当人は「母親が悪い」と合理化していることが大部分ですが、ご家庭の様子を細かくみますと、だいたい本人がこの争いの仕掛人になっています。

この母子の争いを表面的にみて、母親の態度にのみ問題があるとみるのは、間違った見方です。母にだけは(安心して)当たれるという面があるのです。摂食障害は、本人の絶望的な気持ちもさることながら、あるいはわが子が死ぬのではないか(拒食の場合)と心配し、あるいは、一家の経済が破綻するのではないか(過食で食費がかさむ場合)と恐れるなど、両親の不安・心配はたえることがありません。したがって母親が抑うつに陥ることもまれではありません。



5.治 療

 本人のみならず、両親の不安も十分視野に入れて治療をすすめる治療者に出会いたいものです。本人の発言を鵜呑みにして、親を敵視するような治療者は、摂食障害の治療には不向きです。本症の治療には、心理療法と薬物療法、そして家族へ援助を欠かすことはできません。精神科、心療内科のなかから、当人・家族との相性のよい治療者を探しましょう。また、医師が身体面のケアをする体制ができていれば、経験ある臨床心理士の治療を受けるのもよいのです。

 摂食障害の症状は、すでに申し上げましたように生死の問題や経済の問題とも直結してきます。初めの頃は、周囲の人々もうろたえてなすすべをうしなうことは理解できます。しかし、やがて治療者の援助を受けながら、両親は正しい権威を取り戻し、本人を長期間にわたって庇護する必要があります。それは本人の理に合わない要求を通すことではなく、愛情にうらうちされた是々非々の態度を貫くということなのです。

 摂食障害は、年単位で回復していきます。また、一直線に回復するものでもなく、波状の回復で多少のゆれ戻しもあり得ます。しかし、本人・家族・治療者の三方が協働して、あせることなく、あきらめることなく、回復への道を探し求めていけば、必ず治癒する障害です。

 

前のページ

ご挨拶 | 日本精神衛生会とは | ご入会の案内 | 資料室 | 本会の主な刊行物 | リンク集 | 行事予定