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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

No.1 生活困窮者支援とメンタルヘルス
―NPO法人ほっとプラスへの相談事例から考察する―

NPO法人ほっとプラス代表理事  藤田孝典


『戦後の浮浪者の精神医学的研究』から

 これまでの社会福祉は、生活困窮者が生活困窮に至る理由を解明しようと研究や実践が進められてきている。古い資料では、『浮浪者の精神医学的研究』(大阪市民生局保護課1958)があり、戦後間もない頃のホームレス状態にある者のホームレス生活に至る理由や有していた精神疾患などの様子がまとめられている。終戦直後から、大阪市周辺でホームレス生活を余儀なくされた人々が1945年から1955年まで、82,936人存在する。それらの人々の精神医学的な状況を分析するという大規模な調査資料である。それによれば、当時から精神発達遅滞(現代では知的障害)、不安神経症、精神分裂器質(現代では統合失調症)、ヒロポン中毒(現代では薬物依存症)などの記述が見られ、それらから発生する生活課題が解消することなく放置され、結果として生活困窮やホームレス生活という事象で現れてくることが報告されている。
 このように60年近く前の文献からも生活困窮者が様々なメンタルヘルスの課題を抱えやすく、生活困窮以前や以後に様々な要因が重なり、それを放置したままになると生活が破綻してしまうことが報告されている。当時は、ケースワークによる支援やごく一部の精神医学があるのみで、十分なソーシャルワークや治療は展開されなかった。そのため、生活困窮者の状況は第三者的な視点から調査研究され、生活困窮に至る理由を研究者の視点からまとめてしまっている。大規模で膨大なデータに基づき、様々な要因が分析されているにも関わらず、最終的なまとめは、「彼等の個々のパーソナリティに帰せられる問題でもあることがうかがえる」(前著P162より引用)としている。要するに、生活困窮に至る理由について、様々な分析はしても、結局のところ、本人の努力や解決意思が低く、自己責任であると断罪している。

まとめ

 実は現代の社会福祉もこの自己責任論を超えられないでいる。生活困窮者の生活課題はいろいろな事情はあるとしても本人の責任として真剣に関われないでいる。例えば、20歳代の男性にメンタルヘルスの課題があるとしても、若いという理由で生活保護制度が必要にも関わらず、受給できないことや生活保護申請を抑制される場合がある。生活保護など受けず、怠けていないで働いてほしいと言われてしまう。あるいは障害者福祉サービスも 療育手帳や精神保健福祉手帳を有している者には、導入することが比較的容易であるが、それらを有しておらず、自身で支援の必要性を立証できない対象者は、生活課題が改善できない。障害がないのではなく、障害があっても立証できずに困っているといえるが、障害がないなら自身で努力するように求められてしまう。また、刑務所から出てこられる人々には特徴的であるが、制度と制度の間に大きな隙間があり、司法と福祉がつながっていない場合、刑務所から出てきたときには何の支援もなく、ホームレス状態に陥ってしまう。そのため、仕事も出来ず、収入の道が何もないため、再度窃盗や詐欺など反社会的な行動をしてしまい、刑事施設へ戻っていくこととなる。その際には、とんでもない反社会的な人物とレッテルを貼り、刑事施設へ押し込めておけばよいとさえ言われる。
 様々な生活課題は、ソーシャルワーカーが真剣にクライエントと向き合うべきものであることは前述した。それが社会福祉は未だにできていない。そのため、生活困窮に限らず、様々な社会問題といわれて、発生し続けている。当事者によって様々な社会問題は発生しているのではなく、追い詰められて発生させてしまっているということを福祉関係者は再認識する必要があるだろう。私たちは、生活困窮者の生活課題を丁寧に生活のなかから理解することができているだろうか。生きづらさをどこまでわかっているだろうか。わかったふりをしていないだろうか。必要に応じて一緒に解決策を模索していくことが出来るか、社会福祉が当事者にとって真に必要とされるか否かの正念場ではないかと考えている。

1.NPO法人ほっとプラスの相談支援現場/相談者に見られるメンタルヘルスの課題
2.20歳代の男性の事例から〜仕事先を転々としてしまう若者〜/50歳代の男性の事例から〜刑務所を出所してきた人に対する支援〜
3.30歳代の女性の事例から〜薬物依存症に対応する社会資源の不足〜/生活困窮者に関わるソーシャルワーカーの持つべき視座
4.『戦後の浮浪者の精神医学的研究』から/まとめ

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