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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

7 子どもの養育環境とメンタルヘルス

長野県佐久総合病院心療内科
藤井 伸


病院という避難港

 「虐待」で傷つけられ、苦しむ子どもたちは救助されて「家族の機能を持った別の育ちの場」としての児童養護施設に入所する。マイナスの地点から「癒されて」、その子どもたち本来の成長の途を辿ってもらうためにである。しかし実際はそうなってゆかない。

 私が症例として紹介したどの子どももかなりの期間養護施設の職員が日夜子どもたちを世話し、訓え、はぐくんできた。それでも養護施設の生活に収まりきれず、私たちにその収拾が託されたのである。そこでこのような児童養護施設の精神科ケア(広くはメンタルヘルス)についての病院の役割についてすこし考えてみたい。

1.ここには症例として載せなかったが、大きな子どもたち(とくに中学校生、高校生の男の子たち)の物理的暴力、行動化に対する危機対応の問題は深刻である。小さい子なら女性職員だけで制御できる。しかし男子中学生そして高校生の攻撃的な態度をコントールするのは男性数人でも難しい。生い立ちへの強い不満、団体生活への憤懣が高じて興奮のあまりの破壊行動が起こる。そのような急を要する危機に際してとりあえず対応する地域の精神科の病棟はあってもいいのではないかと思う。小さい子のいる施設ではその子どもたちに危害が及ぶのである。それだけは避けねばならない。

2.1.ほどではないがA子のような場合にはやはり「危機回避」のため入院を考えてもいいのではないかと考えている。大きな子どもたちのいさかい、葛藤は暴力沙汰にまでいかなくても自傷、家出、逃亡、あるいは自殺につながる可能性があってすぐに対応してあげないととりかえしがつかない。風待ちの避難港が必要と言えよう。

3.ここに紹介した4人の子どもたちはすべて、私にはとても理解できない苦しみ、悲しみ、いわば「闇」を負っているように見えた。そのような闇にこだわらずに病院の臨床心理士たちは気長に我慢強く子どもたちに対応してくれた。子どもたちの明るい面を大事にしてそれに付き合ってくれた。すこし離れたところで子どもたちに自由な空間と時間を与え、好きにさせてあげた。それは日々生活を共にする施設内での人間関係では困難なことであろう。そこにも風待ちの避難港としての病院の意義があったとも言えそうである。

5.施設職員・心理士の働きと病院医師・心理士の働き

1.はじめに
2.症例1/症例2
3.症例3/症例4
4.病院という避難港
5.施設職員・心理士の働きと病院医師・心理士の働き

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