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東邦大学佐倉病院精神神経医学研究室 黒木宣夫 V.家族、職場が気づいた自殺の兆候労災認定された自殺事案(51例)調査7)では、全事例の82%(42)が会社よりも家族が先に自殺の兆候に気づいていたが、家族が先に気づいた言動は、「食事がノドを通らない、受け付けない」といった食欲不振、体重減少、倦怠感、頭痛などの身体症状、また早朝覚醒等の睡眠障害などが最も多く気づかれた言動(61)の36%(22)を占めていた。次に「元気がない、冗談を言わなくなった、笑いがない、無表情、口数が少なくなった」等が16%(10)であった。また「会社を辞めたい」、あるいは「家を売ってでも会社の損失を補填する」「退職願いを出す」等が6例、「疲れた、しんどい、ゆううつ、やばい」と自ら極限に達していることをほのめかす言動が6例、「話しかけてもうわの空…」「妻の前で泣く」等の明らかに抑うつ症状と思われた言動が5例であった。会社が家族よりも先に気づいた言動は、「業務の量が多い」「業務が遅れていた」「能力低下やミスが多くなった」という兆候が4例、自ら「自殺をほのめかし」「同僚への愚痴」が3例であった。つまり、会社は労働者の業務が過剰であることは認識しているものの労働者の疲労や業務遂行過程に支障をきたしていることまではわからなかったようである。 また同調査7)では医療機関を受診していない者は67%(34例)であり、精神科を受診した事例は15.7%(8例)にすぎなかったが、うつ病エピソードが92%(47例)を占めていた。このことは家族が病的な言動に気づいていたとしても、うつ病に罹患した労働者を精神科医療へ繋ぐことが、いかに難しいかを物語っている。
I.はじめに |
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