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公益財団法人 明治安田厚生事業団 体力医学研究所 はじめに近年、抑うつ、不安、ストレスといったメンタルヘルスの問題に世界規模で関心が高まっています。今後、どのような健康課題が社会の負担になるのかはWHO(世界保健機関)等で開発された「障害調整生存年」という指標で評価されています。このランキングで上位に入る疾病・障害ほど社会的経済的な負担が大きいことを意味します。それによると、2004年には第3位のうつ病が2020年には第2位に、そして2030年には第1位になると予測されています。 一方、国内における昨今の医療に目を向ければ、精神疾患患者数は2005年が約300万人だったのが2014年には約400万人となり、糖尿病やがんを大きく上回っています。このような動向を踏まえ、厚生労働省は「4大疾病(がん、脳卒中、心臓病、糖尿病)」に精神疾患を加えて「5大疾病」とすることを2011年に決定しました。精神疾患の医療体制整備が国家的な課題に位置付けられたことから、これからは地域や職域においてメンタルヘルス維持改善のための具体的な取り組みとその効果検証が求められるものと思われます。 自殺・うつ病による社会的損失国内の自殺者数の推移をみると、1998年から2011年まで14年連続で年間3万人を超える時期がありました。その後は減少傾向にありますが、近年でも年間2万人を超す状況にあります。一方、厚生労働省の発表によると、1999年に44万人であったうつ病とみられる気分障害の患者数は2014年には111万人となり、15年間で約2.5倍に増加しています。 経済的な面に目を向ければ、国立社会保障・人口問題研究所が行った2010年の調査で、自殺とうつ病がなくなった場合の日本の経済的便益(自殺・うつによる社会的損失)は年間2兆7000億円という推計値を公表しました。その内訳は、自殺した人が亡くならずに働き続けていた場合に得られる生涯所得が2兆円、うつ病を原因とする失業者への生活保護給付の減少額が3000億円、うつ病がなくなることによる医療費の減少額が3000億円、うつ病による休業がなくなることによる賃金所得の増加額が1000億円と推計されており、メンタルヘルスの悪化が医療分野のみならず経済や産業の面にも少なからずダメージを及ぼしているものと考えられます。 運動と感情調節日常生活において、スポーツ活動や運動を通してストレスを解消したり、気分転換を図ったりすることはよく耳にします。その時の気分や感情は脳で生まれ、脳で調節されますが、このような脳の感情調節機能に運動が関与することがわかってきました。感情のコントロールには「海馬」という脳の部分が深く関わっています。これまで脳細胞の数は生まれたときが最大で、加齢に伴って減少すると考えられていましたが、動物実験では玩具や回し車などを与えて自由に運動したマウスの海馬の神経細胞が増えることが明らかになりました。このことから、ヒトにおいても運動を楽しみながら習慣化することによって海馬の神経細胞が増えることが期待されます。 一方、人間社会では、他者との関係を悪化させないために、相手の感情状態を察して無用の争いを避けることが重要です。2015年の警察庁の発表において、自殺の原因・動機として「職場の人間関係」が上位に位置しており、社会生活における人間関係は大きなストレッサーになるものと考えられます。そこで、人間関係の悪化を未然に防ぐ手立てが望まれますが、近年の脳科学研究では相手の気持ちを慮る「共感作用」、つまり相手と気持ちを共有する機能が運動によって高まることが示唆
はじめに/自殺・うつ病による社会的損失/運動と感情調節 |
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