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公益財団法人 明治安田厚生事業団 体力医学研究所 運動と認知機能ジョギング、サイクリング、水泳といった有酸素運動が認知機能を高めることに有効との知見が多数報告されています。また高齢者においては、運動が認知症の予防・改善に有効であることも明らかにされています。特にアルツハイマー病予防の観点で運動の効用に注目が集まっています。アルツハイマー病は脳内に有害なタンパクであるアミロイドβが脳に沈着することが原因の一つと考えられています。アミロイドβは、ヒトの場合40歳代後半から徐々に脳の中に溜まり始めますが、動物実験でアミロイドβの脳への沈着が運動することで抑制されることが確認されました。また、運動によって脳の神経細胞を成長させるBDNF(Brain-derived neurotrophic factor:脳由来神経成長因子)という物質が増えることも報告されています。今後は、これらの知見を基に、運動を活用した認知機能の維持改善策や認知症の予防策の開発と整備がさらに進むことを期待したいと思います。 運動と睡眠睡眠は、脳を鎮静化させる「ノンレム睡眠」と脳を活性化させる「レム睡眠」に大別されます。ノンレム睡眠の中でも「徐波睡眠」という極めて深い眠りの状態が脳の機能を整えることに深く関わっています。一方、十分な睡眠が取れないと脳の働きは一時的に不調となります。さらに、不安や心配事があって寝不足が続くと、そのことがきっかけでうつ病になるケースも報告されています。これらのことは、睡眠とメンタルヘルスが密接な関係にあることを意味します。他方、適度な運動によって熟眠感が得られたり、中途覚醒(睡眠の途中で目が覚めること)が減ることが確認されています。近年では睡眠中の脳活動をリアルタイムで測定評価する試みも進められており、未だ謎の多いレム睡眠の意義に迫る興味深い成果も得られています。それによると、レム睡眠中に記憶の選別が行われ、その過程においてネガティブな気分に繋がる記憶が削除されると推測されています。今のところ運動がなぜ睡眠の改善に有効かそのメカニズムはよくわかっていませんが、運動による深部体温の上昇とその後の放熱作用、ストレス軽減作用、レム睡眠の誘発作用等が睡眠の質を改善するのではないかと考えられています。 これらのことから、生活の中で何か不快な出来事があった日に適度な運動を行うと、夜間睡眠中に中途覚醒が減って熟眠感が得られたり、ネガティブな記憶が削除されて気分の改善に役立つ可能性が考えられます。先端脳科学テクノロジーの活用がさらに進めば、睡眠に及ぼす運動効果の仕組みも徐々に明らかになるものと思われます。 運動の強度とメンタルヘルス 運動の負荷強度はMETs(メッツ)という単位で表されます。椅子に静かに座っている状態が1メッツ、静かに立っている状態が2メッツ、ゆっくり歩くと3メッツ ノルマや時間に追われる日々の生活の中で、気分を損なうことは誰しも経験することでしょう。そのようなネガティブな心理状態からなるべく早く抜け出すための 一策として、軽体操やストレッチなど低強度運動が活用できるかもしれません。 運動の様式とメンタルヘルス/うつ病と運動療法/運動がメンタルヘルスに効くメカニズム解明の試み/おわりに はじめに/自殺・うつ病による社会的損失/運動と感情調節 |
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