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No.6 高齢者の異常行動と妄想

種智院大学教授 小澤 勲

3.うつ病を基盤にした妄想

 老年期というと痴呆のことばかりが問題になりますが、うつ病が多発する年齢でもあります。多くの場合、発症に先立って、身体的不調、近親者の死亡、近親者とのあつれき、転居、退職、経済的不安などの、暮らしの中で起こった出来事(ライフ・イベント)がみられます。

 高齢者のうつ病は、多の年齢に比較して症状に特徴があります。例えば、激しいイライラがあり、一刻もじっとしていられず、ウロウロ歩き回り、呻き声をあげながらベッドの上で転々反復する方がおられます。逆に抑うつ的な気分はあまり訴えられずに、まったく意欲がなくなって寝込んでしまい、ついには便所に行くのもおっくうになり、失禁するまでになり、時には痴呆と間違えられたりします(仮性痴呆という言葉で表されます)。

 このような行動で示される状態の基盤に妄想があります。「自分は悪いことをした。警察が捕まえにくる」というような罪責妄想、「自分は癌だ。腸が腐って便も出ない」というような心気妄想、「入院費も払えないほど貧乏になった」というような貧困妄想はうつ病の3大妄想といわれているのですが、高齢者の場合には、これらに加えて、「大切なものを盗まれる」「近隣からのけ者にされる」「家族にないがしろにされている」「自分のために家族に類がおよび、一家離散する」などの、自分が所有している物、あるいは所属している共同体への侵襲あるいは排除というテーマも多く見られます。

 また、高齢者のうつ病には自殺が多いことも知られています。なかには、一見したところ、感情・態度にはうつ病らしいところが見当たらず、ときには微笑みを浮かべたりしておられ、なんとなくシンドイとか、今まで興味をもっていたことに心が騒がなくなった、などと訴えられるだけだった方が(「微笑みうつ病」などとよばれます)、突然自殺を企てられるのです。病気の中に入り込んで悩み苦しむ(ことができる弱さをもった)人に比べて、かえって取り繕い続ける(エネルギーをもった)人のほうが、取り繕えなくなると、自らを消滅させるという方向で一挙に「解決を図る」のでしょうか。

 これらの妄想、あるいはそれに基づいて発現してくる行動異常は、うつ病の一つの症状ですから、抗うつ剤などの治療によって、間違いなくなおるのです。ですから、うつ病の正確な診断が求められます。

4.痴呆性老人の妄想

1.高齢者は心のゆらぎを行動として表現する
2.若年期幻覚妄想状態
3.うつ病を基盤にした妄想
4.痴呆性老人の妄想
5.高齢者の脆弱性
6.老いるということ

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