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No.3 共働き家族とメンタルヘルス

東京都立大学人文学部 稲葉 昭英


3 専業主婦のメンタルヘルス

 1993年のデータを用いた筆者の研究では、専業主婦のディストレスも高いものではありませんでした。役割展開仮説も成立していないのです。ここから考えられるのは、職業に強い志向をもっている女性でも、子どもが生まれると育児中心の生活になり、職業よりも育児を優先させていく、そのために退職がそれほど大きな喪失感に帰結していない、ということです。実際に、子どもをもつ女性のほとんどが自分にとって一番重要な役割は「母」であると回答しています。

 しかし、人々が職業に対して抱く自己実現の期待が大きいほど、そして人々が人を職業的な能力という点から評価するようになるほど、職業につくことのメリットは大きくなり、職業を失うことの損失は大きくなります。 また、職業から得られるメリットが大きい立場にある人ほど−具体的には社会的評価が高かったり、収入が多かったりする職業についている人ほど−、職業を失うことの損失が大きくなります。高学歴の人ほどこうした職業につける可能性は高いですから、高学歴の専業主婦ほど、職業をもたない喪失感や自己実現の不充足感を経験するようになることが予想できます。

 筆者は1999年に得られた全国規模の代表性のあるデータをつかって、6歳以下の子どもをもつ女性を取り出して、この分析を行ってみました。常勤の女性のディストレスはやはり低いものでしたが、短大・大卒以上の学歴をもつ専業主婦のディストレスは格段に高い値を示しました。だんだんと専業主婦のメンタルヘルスの悪さが報告されるようになり、とくに高学歴の専業主婦にそれが顕著である傾向が出現しているようです。

 こうして、全体としては役割展開仮説が成立すること、つまり職業役割をもつことがメンタルヘルスによい影響を与えるという結果が示されるようになってきています。ただし、利用可能な親族がいなければ、こうした肯定的な効果は相殺されてしまうことは前節で述べたとおりです。近年は女性も職業をもつことのメリットがますます大きくなっているため、育児期に利用可能な親族が存在しない場合でも就労を継続する女性が徐々に増えています。夫が相当程度家事や育児を分担しない限り、こうした女性が役割過重を経験し、職業をもつことのメリットが失われてしまう可能性は大きいでしょう。その意味では、夫の家事・育児参加の意義は今後大きなものとなります。

共働きの夫のメンタルヘルス

1.女性の就業の動向
2.有配偶女性の就労とメンタルヘルス
3.専業主婦のメンタルヘルス
4.共働きの夫のメンタルヘルス

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