東京都立大学人文学部 稲葉 昭英 4 共働きの夫のメンタルヘルス男性は、結婚するときわめてディストレスが低くなり、女性にくらべて結婚がもたらす心理的なメリットはずっと大きいことがわかっています。これは、結婚後に男性が妻から受け取る心理的サポートが多いためだとされています。では、妻が就労することで夫はどのような影響を受けるのでしょうか? 概して共働きの夫の方が、専業主婦を妻に持つ夫よりも家事に多く参加することが知られていますが、夫が家事参加するほど、夫の結婚満足度は低くなることが報告されています。ここから、共働きの夫の方が専業主婦を妻に持つ夫よりディストレスが高いことが予想されますが、筆者が1999年のデータを分析した限りでは、両者に統計的な差異は見られませんでした。共働きの夫の家事参加が高いといっても、概してそれがわずかなものであるためであるようです。少なくとも妻の就労が夫のメンタルヘルスに悪影響を与えているという結果は筆者の知る限りありません。 また、アメリカの研究では妻が専業主婦であると、夫は稼ぎ手としての責任感が大きくなり、失業や仕事上の失敗から大きな精神的ショックを受けますが、共働きではこの効果が和らぐことが報告されています。二人が働くことで、職業上の問題が引き起こす重大性が緩和されるわけです。また、専業主婦のディストレスは夫からの心理的サポートのありようによって大きく影響されますが、共働きの女性ではこの影響ははるかに小さくなります。これは、専業主婦は主たる活動の場が家庭であり、夫婦関係のあり方から大きく影響を受けるのに対して、共働き家族では家庭のもつ影響力が相対的に小さくなるためであると考えられています。 このように考えると、むしろ共働きになることで、夫婦ともに職場の問題や夫婦関係の問題から比較的影響を受けずにすむことになります。全体的に見れば共働きにはメンタルヘルス上の利点も多いのですが、この利点を生かすには夫の家事・育児参加が今後は不可欠になるといえるでしょう。 1.女性の就業の動向 |
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