ご挨拶日本精神衛生会とはご入会のご案内資料室本会の主な刊行物リンク集行事予定

No.6 ドメスティック・バイオレンス
-古くて新しい家庭の問題-

立命館大学教授 中村正


DVによる被害の特徴と心の傷つき

 ドメスティック・バイオレンスを受けると、身体に傷がつくことはもちろんですが、心も傷つきます。 愛した人から受けるDVは特別な傷つきとなります。 また、DVは、長期にわたり、繰り返し、断続して起こります。 DVのきっかけとして、「それはささいなことだった」とよく殴る人はいいます。 でも、ささいなことであっても被害を受ける人にとっては深刻です。 そんなささいなことでどうしてこんなに暴力が起こるのか、いつ起こるのか、いつ終わるのかという具合に、恐れをいだきながら日々を一緒に過ごすこととなるからです。 「卵の殻の上で暮らしているようだ」、「地雷とともに生活しているようだ」とよく言われます。 こうして、DVの被害者は、いつもなにかに怯え、敏感になり、息苦しいものとなってしまいます。 乳児や要介護老人などは声さえあげられないのです。 こうなると安らぎの場としての家庭どころではありません。

 やっかいなことに、世間体もあり、加害者が殴らない時もなり、場合によっては謝罪もするので、なかなか表面化しないのがDVです。 こうした環境に長くいると、正常な感覚が麻痺していきます。 家族を訴えることとなるので、援助を求めることすら罪悪だと感じてしまうのです。

 DV被害者の心理は独特です。 心の傷の表れ方は多様ですが、いくつか共通性があります。 一つは、暴力を振るわれたその時の出来事が、突然、思い出されるということです。 再体験ともいいます。 繰り返して、そして衝動的に記憶がよみがえります。 悪夢を見ることもあります。 リアルに想起されることにより、恐怖が高まります。 それを思い出させるようななんらかのきっかけからそれらは起こります。 その都度、心理的な苦しさや発汗などの反応がおきます。

 二つは、その傷を思い出させる契機や出来事に関わるような刺激を無意識的に避けます。 あるいはそうした刺激に敏感にならないように防衛心が作用し、感情鈍麻がおこることもあります。 その時のことを想起させる行動、風景、人間、場所、感情、言葉などを避けようとするのです。 楽しめない日常となるのです。 対人関係も自然ではなくなります。 社会的な孤立感を深める場合もあります。 心と行動のひきこもり状態が慢性化するともいえます。

 三つは、過覚醒(自律神経系の興奮や過覚醒の症状)です。 入眠困難、中途覚醒、不眠などです。 普段でも一つのことに集中できなくなることもあります。 ささいなことに神経が過敏になります。 髪を掻くために手を挙げた他人の動作にもビクッとしてしまうような感覚です。 過剰な警戒心ともいえるでしょう。

 こうした不安定な心理的状態をもたらすので、親しい者同士の暴力は特に深刻な被害となります。 夫婦喧嘩ですまされないのがDVです。 殴られている被害者が援助を求めることから変化が始まります。 被害にあっていると思われる場合は、都道府県に開設されている「配偶者暴力相談支援センター」が窓口となり、必要な援助を行っています。 緊急性のある場合は、警察署にいくなどして安全を確保することが重要です。 一時的に避難する場所としては各地の婦人相談所の保護施設を利用することもできます。

家庭内暴力への介入

家庭内暴力の社会問題化
DVによる被害の特徴と心の傷つき
家庭内暴力への介入
加害者への対応
男らしさの暴力をのりこえる
恋人同士の時から暴力のないつきあいを

ご挨拶 | 日本精神衛生会とは | ご入会の案内 | 資料室 | 本会の主な刊行物 | リンク集 | 行事予定