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こころの健康シリーズ\ 現代の災害とメンタルヘルス

No.2 緊急事態発生時の
初期対応の重要性

明星大学名誉教授 高塚雄介


自然災害と人為的災害

 東日本大震災の際には地震と津波に襲われ、退避を余儀なくされた人たちと、原子力発電所の破壊から逃避を余儀なくさせられた人たちとでは、心理的状態がかなり違った。前者の人たちからは不安と今後の見通しについて話す人が多いのに比べ、後者の人たちからはむしろ不満、それも怒りが込められた言葉が多く出された。それは時間の経過するごとに強まっていった。前者の人たちが時間の経過とともに心理的には穏やかになっていったのに比べ、後者の人たちは却って怒りが増幅していったのである。原発事故も自然災害の一環であり、人為的災害とは異なると説明する関係者も多かったのだが、それがまた怒りを強める結果をもたらしている。関係者はそうした被災者の心理的状態に目を向けて発言することが必要であると思われた。おそらく、すべからく人為的被害と呼ばれるものに遭遇した人たちの心理には、何かしらの怒りが存在しておりそれは時間の経過とともに増幅していくことを知っておくことが大切なのであろう。その辺りは人為的被害者の支援にあたる弁護士さんなどが詳しいかもしれない。

あらためて緊急事態の初期段階に求められるもの

 初期段階に求められるのは「心のケア」といってもカウンセリングのようなことをするわけではおそらくない。阪神淡路大震災の際には、「心のケア」に役立てるのだと言って、「箱庭のセット」を持ち込もうとして、邪魔だからと.追い出されたカウンセラーがいた。その後各地で起きた震災の際に筆者が回った避難所でも、カウンセリングお断りという紙が貼られているのを何か所かで目撃した。そんなことよりもそこのお年寄りのおむつを替えるのを手伝ってくれと避難者らが声を荒げた光景も目にした。

 必要とされる情報の中には切実なものもある。常備薬を手に入れることができず困っている人が多い。避難所に医師や保健の専門家がいれば薬を手に入れる方策もつかみやすいが、かかりつけの病院も薬局も稼働せず、薬の名前すら判然としない人も多い。保健所や役所も機能せず、避難所にいた係官も担当でないのでわからないとしか返されなかった人も多い。筆者が対応した電話相談でもかなりの人たちから困っていると聞かされた。当然のことながら、対応する者としては可能な限りの情報をかき集めて提示していくしかない。こうした情報をいかに早くすみやかに手に入れるか、普段からその体制を作っておき緊急時にはすぐ稼働出来るように訓練をしておかなければならない。国などの機関との連携はもとより、やはり地元でさまざまな情報を持っている人や機関と普段から連携を保っておくことが大切であろう。日常的な組織的対応と訓練が求められている。それなくしていきなり現地に入り込んでも、役に立たないことも多い。今は被災地の復興の手伝いとして、多くのボランティアが参加するようになっているが、地元の社会福祉協議会がまとめ役として機能するようになっている。「心のケア」をするにしても一匹オオカミでは限界があるということを知らなければならない。

 「心のケア」を掲げて相談を開始してもいくつかの課題がある。まず地域によっては心を開いて相談するということに抵抗を持つ人たちが結構いることである。周囲の人に相談をしていると知られたくないと思う人たちもいる。そうした人たちに向けては電話による相談の役割は大きい。メールでの相談というのは緊急事態に際してはあまり期待できないのは言うまでもない。

 筆者の経験では地域消防団の人からかなり相談を受けた。警察や消防、自衛隊など組織ではメンタルケアの専門家を置いて対処することが行われているのに比べいわゆる地域消防団員にはそうしたものはない。彼らもまた同僚の目を気にして自ら相談を希望する者は少ない。団の全員に対して個別に10分だけ会うように設定するとさまざまな問題が打ち明けられてきた。自らも被災者としての立場でありながら使命として頑張っている人も多い。その彼らからしばしば問われたのは、対応する被災者とどう話していいか困っているというものであった。がんばれとしかいいようがないがそれを言っては駄目だとも教えられていると。ここでは専門家としてカウンセリング的な対応というものを伝授してあげるしかない。

 

心の歪みに対応することの難しさ

はじめに
初期対応としてまずしなければならないこと/地域により異なる被災者の心理的傾向
自然災害と人為的災害/あらためて緊急事態の初期段階に求められるもの
心の歪みに対応することの難しさ

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