浴風会病院精神科診療部長 須貝 佑一 1.家族の思い日頃、痴呆患者さんを診療していて家族からきまって尋ねられることは「痴呆がこれ以上進まないようにできないか」「治る薬はありませんか」ということです。筆者が老年精神医学を専攻して痴呆患者を診るようになってから20年以上ですが、家族から出るこの切実な訴えは今も変わりません。しかし、1年半前に売り出された「アルツハイマー型痴呆の治療薬」(注:アリセプト)の登場で医者と家族のやりとりが少し変わってきたようにも思えます。痴呆を抱えた家族からは「今はいいお薬があるそうですが」「進行を遅らせるお薬があると新聞に載っていました」といって来院するケースが多くなっているからです。 薬に対する期待は家族にも医者にもあります。が、この1年半にわたって実際に全国で使われた実績では、当初期待されたほどの著効はみられません。わずかに聞いたと思われる例でも1年すればやはり痴呆が進行してしまうのです。それでも「多少はいいですから」と医者も薬を処方します。他に競合する薬がないという状況と少しでも痴呆を治したいという家族の思いが交錯して現状を追認しているのでしょう。 1.家族の思い |
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