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No.5 アルツハイマー病の治療を巡る話題

浴風会病院精神科診療部長 須貝 佑一

6.物忘れと精神症状

 アルツハイマー病にかぎらず、痴呆症の進行のしかたと症状の推移を見守っていると痴呆症のために周囲が心配し、困惑しているのは何かが見えてきます。介護家族や施設職員が疲弊するのは本人の物忘れや見当識障害といった知的な機能の障害でないことにすぐに気づかされます。

 悪性の物忘れがあり、自己の洞察力に欠けるようになると頻繁に置き忘れ、捜し物が多くなります。この時期に「ない」「盗った」と身近な人を攻撃するようになります。その攻撃に晒されやすいのが嫁やヘルパーです。説得はまったく効きません。数年してやや症状が進行すると食事が終わっても「まだご飯を食べていない」といい、人物や場所の見当識が落ちると家にいても「私の家に帰らせてもらいます」と夜中でも外に出ようとします。咎めたり注意すると興奮して怒りだして手がつけられない、ということもあります。こうした日常の精神的な変調と行動の異常が痴呆症の介護を難しくしています。外来を訪れて「治る薬」「進まない薬」と家族が要求していく背景にはこういう痴呆症状が治って欲しいという願いがこめられているのです。

 アセチルコリンエステラーゼ阻害薬はたしかに1年ほどの間、わずかに記憶を改善したり、計算力を少し上げる効果は持っています。しかし、5品目を覚えさせたときに2品目しか思い出せなかったのが3品目思い出せるようになった、今が何日か答えられるようになった、自発性が出たという次元ではアルツハイマー病初期にみられる物盗られの妄想や病中期の「幻の実家」に帰ろうとする行動を直し、精神不穏を緩解に導くことはできません。筆者が使った症例ではかえって興奮して暴れるようになった人もいます。それよりもすでにノウハウの蓄積されている抗幻覚薬や安定剤をごく少量使う方が有効なことも多いのです。



7.痴呆症を治療する意味

1.家族の思い
2.痴呆症をめぐる誤解
3.新しい痴呆疾患の発見
4.アミロイドカスケード(滝流れ)仮説
5.痴呆症の治療戦略
6.物忘れと精神症状
7.痴呆症を治療する意味

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