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No.7 介護者のメンタルヘルス

放送大学客員教授 竹中星郎

3.家族のメンタルヘルスのために

 1)全力投球しない

 介護は家族にとって生活の一部であって、すべてではありません。といっても精神的には生活のすべてを覆う重いテーマですが、それだけにふだんの生活は自分を大切にするように心がけます。高齢者も家族の一員なのであって、高齢者を中心に家族がまわっているのでなく他の家族の仕事や人間関係も大切にします。そしていつまで、これでいい、といったゴール設定ができないので全力投球しないように努めます。疲れないためです。

 2)自分の世界を大切に

 仕事を続ける、ボランティア活動に参加する、地域やグループの人間関係や交流を大切にすることなどです。要介護者がいると家族も自由に行動できなくなります。買い物や音楽会、泊まりがけの旅行などが制約され、そのうえ、1対1で向き合う人間関係になり、たがいに逃げ場のない緊張状態に置かれます。

 このように介護は空間的にも時間的にも、そして人間関係も狭まった世界になりがちです。それでも家族は外に自分の世界をもつことができますが、高齢者はそれも制限されています。デイサービスは介護者の負担を軽減するだけでなく、高齢者にとっても家以外の場をもつ意味があり積極的に利用すべきです。

 3)“怒ってはいけない”わけではない

 失禁したり食事を手で食べると家族のストレスは大きいのですが、多くの介護のマニュアルには「痴呆高齢者を怒ってはいけない」と記してあります。しかし介護は生活ですから、いつでも自分の感情を抑えなければならないわけではありません。怒ったら異常行動が減ったという場合もあります(それも忘れるのでせいぜい数日ですが)。怒らないというマニュアルは、生活をともにしている家族ではなく、介護スタッフのためのものです。

 怒らないほうがいい第一の理由は、理詰めで怒るのは意味がないからです。真面目な家族は、なぜこういうことをするのかと責めたり、孫の教育上よくないと説教しますが、痴呆の異常行動はそういうレベルで解決できる問題ではないのです。介護では“さりげなさ”が大切です。失禁の跡を「猫がした」と弁解する高齢者に証拠をつきつけて追い詰めるより、「ぬれていると体に悪い」とテキパキ着替えをすませることです。

 4)在宅介護を使命視しない

 多くの高齢者は住み慣れた自宅で、家族に介護されることを望みます。しかし痴呆が進んだり、仕事の都合でこれまでのように介護できなくなる場合があります。そのために家族は仕事をやめるか、施設や病院に頼もうかと考えるようになります。“介護は生活の一部”ではなくなったので、新しい事態に迷ったり悩むのは当然です。その時に「生活の一部でなくなったら施設に任せることも選択肢」と考えると気持ちにゆとりを生みます。

 最後まで看取ることが使命と思い込んでいると、この先介護負担が大きくなるのではないかと、不安が抜けません。

 5)今日を大切にして、心配の先取りをしない

 介護では、痴呆が進んで症状が悪化したらどうしよう、肺炎になったら、骨折したらと、心配の先取りをしないで現在の生活を大切にします。家族がこれまで直面したさまざまな困難の大半は予測してなかったことで、それを乗り越えて解決してきたのです。したがってこの先の不足の事態を案ずるより、その時はその時に考えようと割り切ることです。

 万一の事態にそなえようとしても、“これで安心”というゴールはないので、限りなく不安に追われます。それより信頼できるかかりつけ医を見つけることが大切です。その際の大事な条件は家族の考えをきちんと理解してくれることです。また万一の時には、救急医療システムを利用すれば必ず対応してくれます。


4.おわりに

1.介護とは生活へのサポート
2.家族へのサポート:ヘルパーの役割
3.家族のメンタルヘルスのために
4.おわりに

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