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公益財団法人神経研究所・晴和病院理事長 加藤進昌 発達障害医療の近未来私が大人の発達障害専門と銘打って外来とデイケアを開いたのは2008年だった。それがまたたく間にメジャーになって、精神医学の中の一分野を今日では形成していると言えるほどになった。そのような現在を私が予測していたと言いたいところだが、それは全くない。もちろん自分の力で現在があると言うつもりもない。外来やデイケアを開くことができたのは烏山病院にそれだけの蓄積と人材があったからであるし、折からアスペルガー症候群が「売れ筋」だと機敏に反応する出版社や「自称専門家」の貢献(?)があってマスコミが飛びついたからだと思われる。でもその多くは今日では跡形も無い。しかし発達障害医療はしっかりと根付いた。それだけ「発達障害」に悩む層が社会に広く存在していたからに他ならない。 しかし、「発達障害とは何か」という議論は迷走を続け、いまだに終わりは見えない。晴和病院の外来統計でも、受診者の過半数はまったく発達障害とは無縁の人たちであるのは今も続いている。夫との不和に悩んで、自分はカサンドラ症候群だと訴える妻が今も外来には絶えない。医療者の側にも、自閉症の診療経験もないままちょっと診療に難渋すると「発達障害のグレーゾーン」という便利なレッテル貼りも横行している。自閉スペクトラム症に効く薬は少なくとも今日まったく無いが、二次障害のうつ状態にと免罪符のように抗うつ薬を処方されることも枚挙にいとまがない。私は一時期こういう風潮に相当にいらだった。中には便乗して怪しい治療法や、犯罪すれすれの暴力による「引き込もりからの自立支援」で巨額の費用を要求する施設まで登場したのである。 大人の発達障害医療が始まってすでに20年近くになる。適切な診断が根付くには時間が必要であり、それまでは過少診断と過剰診断の間を揺れ動くのはある意味避けがたい。受診する人たちの側でも同じことが言えるように思う。カサンドラ症候群と訴える妻たちにも、当初は思いやりの無いことを一方的に夫の障害のせいにした例が圧倒的だったのが、最近では本人なりに「どうしたらいいのでしょうか」と妻を気遣ってやってくる本物のアスペルガー症候群の夫が増えてきたように思う。彼らは本質的に自分のことが見えない人たちなので、それだけ周囲の見る目が多少なりとも成熟してきたのではないかと、この頃は感じるようになってきた。 発達障害医療の近未来はどうなるだろうか。発達障害診断のゴールデンスタンダードはまだ確立しているとは言い難い。そもそも発達障害は生まれつきの特性であり、通常の疾患のように根治できるものではない。当事者にとっては、診断などはどうでもいいのである。生きづらさを何とかしてくれればそれでいいのである。自閉症スペクトラムのショートケアプログラムが診療報酬加算の対象になったことを受けて、その質を担保するために始めた成人発達障害支援学会も今年で第12回を数えるようになった。晴和病院のデイケア登録者数はおよそ300名、うち発達障害者は8割を占める。当初は前例のない試みで暗中模索の状態であったが、ショートケアプログラムの中で社会的スキルを訓練し、当事者同士が交わる中で彼らは確実に変わっていけることを私たちは学ぶことができた。この効果は、同じ特性を持つ人たちが集まってお互いの認知バイアスを共有する「ピアサポート」によって生まれてくるように、現段階では私たちは考えている。
はじめに 〜自分史ことはじめ〜 |
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