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公益財団法人神経研究所・晴和病院理事長 加藤進昌 おわりに 〜治す医療から「治し支える」医療へ〜公益財団法人神経研究所は、2025年4月に始祖の地の新宿区弁天町に帰ってくることができた。附属晴和病院の外来や病棟が新しくなってアメニティも向上したのはもちろんであるが、法人として病院機能のほかに生活支援機能を附置することとした。この寄稿文を発行している日本精神衛生会も建築中の出先から当地に戻っていただいた。小石川東京病院での仮営業時代から始めていた東京都発達障害者支援センターの成人部門、通称「おとなトスカ」のほかに、新宿区の地域活動支援センターも新たに受託して活動を始めている。さらに、新しい試みとして、宿泊型自立訓練施設を併設することにした。 自閉症スペクトラムの人たちは、社会的コミュニケーションが決定的に苦手である。そのためにデイケアでのショートケアプログラムがあるわけだが、それすらアプローチできない人たちが少なくない。終日自宅にひきこもってパソコンに向かっているのである。孤独は彼らにはまったく不都合ではないのである。あるいは何とか障害者就労を果たして、社会とはなんとかつながりを持つに至っているが、実生活になるとすべて家族に依存してしまっている。家族も就労してくれたことに安堵してすべての生活ノウハウを代替してしまう。いわば「引きこもり」は「引きこもれる」余裕の産物ということもできる。こうした状況に「仮の安定」をしてしまっている人たちがいざ親にもしものことがあった時のセーフティネットとして、自炊や金銭管理、果ては相続対策を含めて自立訓練をする場所を提供しようというものである。 発達障害専門外来を受診する人たちの半数は発達障害ではないと思われることは既に述べた。専門外来をはじめた当初は、発達障害であるのに、統合失調症と誤診されて長期入院をさせられて薬漬けになっているというキャンペーンがマスコミから喧伝されたが、現在ではそういったケースはゼロでは無いと思うが、ほとんど見ることは無くなった。おそらく混同される疾患の第一は社交不安症と思われる。こういった「発達障害に似て非なる人たち」が発達障害ではないからと言って、対処する必要が無いということは全くない。むしろその悩みはずっと大きく深い。そのために心理カウンセリングルームを自由診療で提供する一画を設けた。 これまでの精神保健は統合失調症を念頭に構成されてきた。法律で精神障害と記載されている文言はほぼ統合失調症と置き換えることができる。家族会の目標はなんとか医療,投薬の道筋に当事者を向かわせることを旨としてきた。治療の流れに載せることができれば、道は開けると考えていたし、実際、私たちはコンプライアンスをどうしたら上げることができるかに腐心してきた。しかし、発達障害の医療が登場して、その関係は決定的に変わってきているように思う。薬を投与してなんぼという治療法は発達障害にはまったく通用しないのである。治すのではなく「治し支える」医療の先に精神医療の近未来はあるに違いないと私たちは確信しつつある。
はじめに 〜自分史ことはじめ〜 |
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