慶應義塾大学保健管理センター 大野 裕
イラスト 田久保 純子
はじめに
職場のメンタルヘルスを考えるとき、仕事の内容や量はもちろんであるが、同時に職場での人間関係が重要な役割を果たしていることは言うまでもない。それもあって、旧労働省が平成12年8月に発表した「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」には、ラインによるケアが、セルフケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、(外部の医療機関などの)事業場外資源によるケアに並んで挙げられている。
しかし、実際の現場では、上司自身が忙しく、精神的なストレスを感じていることもあって、ラインによるケアが充分に行われる環境にあるとは限らない。例えば、職場の自殺企図者80件を対象にした研究によれば、職場で気づかれていた例は1例だけときわめて少ないことがわかっている。これは、精神的な問題を抱えた労働者がいるときに、周囲が気づくことが非常に難しいことを示すものである。

こうした状況の中で、気づきを少しでも高めるためには、困ったら相談できる人間的な環境作りが重要になってくる。また、そうした環境は、精神的に行きづまる人を少なくするための一次予防としても重要である。そこで、今回は、そうした環境作りのために職場で働く人たちが個人レベルでできる人間関係を軸に、職場のメンタルヘルスについて考えていくことにしたい。
セルフケアと人間関係:自分の中に閉じこもらない
はじめに
セルフケアと人間関係:自分の中に閉じこもらない
ラインによるケアと人間関係
おわりに