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No.9 職場復帰支援をめぐる昨今の動向と対策

京都文教大学・神田東クリニック島 悟
イラスト 内藤あゆみ


2.「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」改訂について

手引きの趣旨で述べられているように、「心の健康問題により休業している労働者が増加しているとする調査結果」があり、「休業後の職場復帰支援がスムーズに進まないという調査結果」があるとの現状認識に基づいて、今回改訂作業を行ったものです。つまり、この問題が職場において深刻化しているわけです。実際、産業医としての筆者の業務の大半は、職場復帰支援の仕組みづくりと個別対応です。

手引きの改訂版における主な改正点は下記のようにまとめられていますが、全体の流れを理解するために、5つのステップを図に示しておきます。

(1)休業前の段階
手引きでは、「円滑な職場復帰を行うためには、職場復帰支援プログラムの策定や関連規程の整備等により、休業の開始から通常業務への復帰までの流れを明確にすることが重要であることから、これらを基本的考え方として示した」とありますように、一連の流れを意識して職場復帰のプランを立てることがとても大切です。また「策定された職場復帰支援プログラム等については、労働者、管理監督者等に周知すること」とありますように、職場でこうしたプログラムを作成しても、なかなか浸透しないもので、実際に事例が発生して改めて読むことになります。そうしたプログラムのあることが認識されていればよいでしょう。

(2)病気休業開始及び休業中の段階
手引きでは、「休業中の労働者が不安に感じていることに関して十分な情報提供や相談対応を行う」とありますが、特に初めて疾病休業を経験するとなると、勝手が分からず、会社を首になるのではないかと無用な心配をされることもあります。雇用に関しては保証されることや、傷病手当金などの経済的支援のあることなどの情報提供を、会社から本人に行うことが大切です。そうでないと安心して療養に徹することができません。

また「職場復帰支援に関する事業場外資源や地域にある公的制度等を利用する方法もあることから、これらについての情報を提供することも考えられる」とありますが、最近では、都道府県単位で設置されている障害者職業センターにおける職場復帰支援プログラム(リワーク)や一部の都道府県・政令指定都市の精神保健福祉センターにおける復職支援プログラムが利用できるようになってきました。また医療機関においても、類似のプログラムを提供する施設が増えてきています。

(3)職場復帰の決定までの段階
手引きでは、「主治医による職場復帰の判断は、職場で求められる業務遂行能力まで回復しているか否かの判断とは限らない」とありますように、主治医はあくまで日常生活における病状の推移を把握して病状回復の所見をもって復職可能としているのであり、職場生活における機能水準の判断を行っているわけでなく、また行い得ないということがあります。このため、手引きでは、「より円滑な職場復帰を図る観点から、主治医に対し、あらかじめ職場で必要とされる業務遂行能力の内容や勤務制度等に関する情報提供を行う」と述べられていますが、主治医に職場生活に関わる情報提供を行って、業務遂行能力の回復を判断して欲しいということです。実際には、多忙な臨床医にどこまでお願いできるかという問題があります。またそうした特別の対応についての対価も考慮が必要でしょう。

「職場復帰前に『試し出勤制度』を導入する場合は、その人事労務管理上の位置づけ等について事業場であらかじめルールを定めておくこと」と注意書きがなされていますが、そもそも休業中に試しとは言え、当事者に仕事をしてもらって、業務遂行能力の回復具合をみることの是非と、その方法について、十分に論議をしておくべきであると思われます。職場側の都合で設定されるハードルになってしまっては、職場復帰支援という趣旨と合致しなくなってしまいます。

(4)職場復帰後の段階
手引きでは、「心の健康問題を抱えている労働者への対応はケースごとに柔軟に行う必要があることを踏まえ、主治医との連携を図ること」とありますが、心の健康問題は多彩であり、個別的対応を要します。病状が多彩であるということと、当事者の性格や物事の考え方や生き方、あるいは家族関係など生活状況は様々です。画一的対応は困難であり、危険です。

また「職場復帰した労働者や当該者を支援する管理監督者、同僚労働者のストレス軽減を図るため、職場環境等の改善や、職場復帰支援への理解を高めるために教育研修を行うこと」と記載されています。あらゆる施策を実施する上で、教育研修は必要不可欠です。特に職場復帰支援においては、支援を受ける者とともに、支援を提供する者にも相当の負担がかかるため、職場環境改善やストレスへの対応に関する教育は重要になります。

3.職場復帰支援が注目されている状況について

1.はじめに
2.「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」改訂について
3.職場復帰支援が注目されている状況について
4.終わりに

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