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No.5 災害にさらされた子どもの心とその支援
-大人や学校はどうささえるか-

帝京大学准教授元永拓郎


2.災害にさらされた子どもの心理

このような複合的災害であるがゆえに、子どもの災害へのさらされ方も多様である。轟音を伴う激しい揺れや家財が倒れ怪我をしたなどの体験もあろう。津波に襲われ流される恐怖を体験した子もいよう。このような強度の衝撃体験に対して、人はいわゆるショック反応を示す。全身に力が入り神経が高ぶり過度に緊張したまま身動きがとれなくなる。眠れなくなったり食欲もなくなったりする。頭がまっ白になり混乱して呆然とした状態になることもある。また、衝撃体験が何度も頭の中に生々しく浮かんでくる再体験(フラッシュバック)をすることも多い。このようなショック反応の状態は、医学的には急性ストレス障害(ASD)と呼ばれる。

子どもの場合、衝撃体験への反応としての行動が大人より多彩となることがある。泣き叫びいつまでも落ち着かない、親のもとを片時も離れずべたべたと甘えてくる、下を向いて何も言わずしょんぼりしている、眠れないとぐずったり夜中に突然大きな声で叫ぶなどの行動がみられることもある。

また子どもは親や周囲の大人の様子をみて自分のふる舞いを決めることもある。衝撃体験で嘆き悲しむ親を横目で見て、自分はしっかりしなければと思い、無理して普通に過ごしている子どももいる。逆に先生や大人ががんばっている姿をみて、自分が悲しんで心配かけては申し訳ないと考え、悲しむ心を奥深くしまいこみ明るく行動する子どももいる。自分の気持ちに向き合ったら悲しすぎて泣き崩れるのが怖くて、あえてふざけてふるまい、親に怒られ心の深い部分で傷つく子どももいる。

子どもの年齢別の反応の相違にも留意する必要がある。小学校就学以前の子どもは、ひきこもりや沈黙といった反応が多いし、小学校児童には、集中力低下による成績低下などの学業への支障がみられる場合もあろう。思春期には非行やさぼりといった行動化などもみられる(オースティン,1996)

これらのショック状態が長引き、1ヶ月以上続く場合、心的外傷後ストレス障害(PTSD)として医学的には扱われることがある。この状態は、急性ストレス状態が慢性化した状態と考えるとわかりやすい。過緊張や再体験が続き、衝撃体験と似た場面をなるべく避けるようになる。余震をきっかけに被災した当日をありありと思い出し不安となる(フラッシュバック)、心身の緊張感が横になっても抜けず不眠となる、地震ではないのにゆれている錯覚にとらわれ恐怖心を感じる、などである。

子どもは衝撃体験への多彩な反応を示す一方で、大人より柔軟な回復力や適応力を見せる場合もあろう。楽しいことやうれしいことがあると、過去の傷つきがなかったかのようにふるまうこともある。実際子どもの回復力にはおどろかされることもある。被災後元気がなかった子が思いっきり遊べるようになった姿に、大人たちが励まされることも多い。

しかし、一見明るく元気な子どもたちをよく観察していると、描く絵の色彩が以前より暗い色となった、時々ボーっとしてやる気が出ない様子を見せる、以前のように何でも隠さず親に話す感じではないような気がする、といった変化が見られることもある。遊びの中に、お葬式ごっこなど死に関するテーマが含まれていて周囲がドキリとすることもあるが、これはポスト・トラウマティック・プレイと言われ、その肯定的側面にも考慮しながらの見守りが必要である(白川,2001)。

大人は衝撃の再体験(フラッシュバック)を言葉にして表現することができるが、子どもは再体験を言葉にできない、またそもそも再体験が何なのかわからずただだまって耐えるしかないといったことも起きるのであろう。言葉にならない子どもの心を、その雰囲気や様子から身近な大人がどう気づくかが重要となる。

また子どもの喪失体験について、大人は充分に気をつける必要がある。大切な身近な人や自宅を失った場合、失ったことを充分に悲しむモーニングワーク(喪の作業)が重要となる。しかし、大災害で充分なお葬式もできない、一緒に親と過ごした思い出の場所のぬくもりも味わえない、思い出の写真もないといった状況で、親の死を受け入れるプロセスには多くの時間がかかるであろう。津波で一変した町並みを前に、まだ現実におきたことかどうか実感がわかないと大人でも思うであろう。ましてや子どもが、その悲しい現実を受け入れるには多くの年月を要する。

3.子どもにどうかかわるか

1.災害にさらされるとは
2.災害にさらされた子どもの心理
3.子どもにどうかかわるか
4.学校のかかわり

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