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こころの健康シリーズ] 成人の発達障害とメンタルヘルス

No.1 児童青年精神科と発達障害
―自分の経験を中心にー

日本発達障害ネットワーク・日本精神衛生会 市川宏伸


3.知的障害児施設への勤務

 その後、2年間の交替勤務で、障害児施設の医務科に移った。そこは生活棟が10あり、当時全国最大規模の障害児施設であった。各生活棟には、棟長がおり、10数名の利用者とほぼ同数の福祉スタッフがいた。これと離れた所に医務科があり、科長の下に看護科、検査科、薬剤科があった。利用者のほとんどは知的障害を持つ自閉症児であり、これに結節性硬化症や、小頭症、脳炎後遺症などの器質的障害児がいた。病名のついてない利用者もかなりいたが、もし医療機関を受診していれば病名のつく人々であった。ここで自分が気づいたのは、医療と福祉の考え方の違いであった。ある生活棟の利用者が、てんかんの発作を起こすため、抗てんかん薬の量や種類を何回変更しても発作はおさまらなかった。不思議に思って、その生活棟を訪ねて勤務表を見せてもらうと、特定のスタッフが準夜帯に勤務している日に限って、発作が生じていることが分かった。すぐにそのスタッフを呼んで、事実関係を尋ねると、その答えは「薬は利用者をダメにするものですから、私が身を呈して利用者を救っていました」であった。本来、受けさせるべき治療を受けさせない虐待≠ニ判断し、すぐに園長と副園長に伝え、指導してもらった。しかし、医療を受けさせない≠スめのグループが施設内に存在し、その中には生活棟長も入っていることが分かった。この背景には、良好な医療が福祉に提供されて来なかったことがあると考え、全福祉スタッフを対象に、「福祉における医療とは」と言う研修会を隔月、夕方1.5時間ほど開催した。園長からは、「残業手当出さなければ、誰も来ないよ」と言われたが、実際には毎回100人ほどが参加してくれ、中には非番のスタッフも来てくれた。この後、医療に対する意識は多少改善され、生活棟と医務科の関係も改善されたように思えた。

 また別の問題として、男子の強度行動障害児が集められていたある生活棟では、スタッフはほとんどが男性であり、いわゆる力による支配≠ェ行われていた。そのやり方に異≠唱えると、「それなら、お前らがみろ」と逆に凄まれていた。ある時、スタッフが医務科に前歯が2本欠けている利用者を連れてきた。「どうしたの?」と尋ねると、スタッフは「愛情の発露です」と悪びれることなく答えた。自らの虐待を平然と語る姿にびっくりした。ここでも、病院と同じことが生じており、18才を超えた行動上の課題が多い利用者が障害児施設にいた。この施設は、行動上の課題が多い利用者が、この施設から移ることを拒否していたからであった。

 

4.児童青年精神科と発達障害/5.終わりに

1.子どもの精神科との出会い
2.児童精神科病院への勤務
3.知的障害児施設への勤務
4.児童青年精神科と発達障害/5.終わりに

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