京都大学大学院教育学研究科教授 山中康裕
1.高齢者において残されている能力
高齢者は、その思考領域はもちろんのこと、感覚領域や行動領域を中心とする身体性においては、「クロノス」(測定可能な、万人に共通の、通常の時間。こころの外的時間)の進行するに従って、徐々にその力が減衰して、いろいろな障害をもたらしてくることは、わざわざここに語らずともみなさん、よくご承知のことでしょう。ところが、高齢者の痴呆においてすら比較的保たれるのが、感性領域であることも、またよく知られた事実です。
感性領域、とくに歌唱・歌謡・舞踊の領域では、リズムやメロディも意外としっかりと保たれていることが多く、人によっては、日常の記憶はとうに忘却の彼方に消え去っている者でも、随分と複雑な歌詞ですら、相当長く、かつ意外と正確に保持されており、ある時が訪れれば、ちゃんと歌え、かつ時として踊りが出る事もあるのです。ここでは、その「ある時」を、仮に「カイロス」(こころの燃える、ある瞬間とか、たましいの震える時、というほどの意味のこころの内的時間)という呼び方で、語ることにしてみます。
2.カイロスを共有する時間
1.高齢者において残されている能力
2.カイロスを共有する時間
3.そもそも歌を取り入れることとなったきっかけ
4.イメージ連句について
5.ある日のイメージ連句
6.歌の連なり