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京都大学大学院教育学研究科教授 山中康裕 5.ある日のイメージ連句その日のコラージュのテーマは、「茶の湯」でした。張られた写真の床の間には、掛け軸がかかり、一輪の侘助が柱に懸かった花瓶に生けられていて、楚々とした女性が釜の前に座り、師匠の上品な手には、黒く焼かれた寂びた茶碗がありました…。 このコラージュにさっそく反応したのが、いつも徘徊しているMさん(女性)でした。「裏千家かな?この帛紗の使い方は…」とつぶやかれたので、その言葉のまま、さらさらと用紙に書きます。もちろん、彼女の名前をすぐ下に続けて書きます。すると、ある上品な老婆が、「この人、ほんにえぇ着物きたはるなぁ。帯もなかなかのもんやゎ」と言われたので、やはり、それをそのまま段落を改めて書き入れ、彼女の名をしたためました。すると、さっきから腕組みしてこれをみていた男性が、「この人、別嬪やナ。わしも隣に座らして貰うヮ」と上機嫌で座に加わります。やはり、その台詞をそのまま書いて、彼の名を記します。さっきからずっと何もいわないでじっとしていた女性に、「いかがですか、これは?」と伺うと、「私、貧乏でしたから、お茶のこと何もしてません。でも、奉公先の奥さんが、したはりました」と小声でしみじみとつぶやかれたので、後半の言葉だけいただいてさらさらと書きます…。 こんな具合に筆ペンで書き入れていくと、瞬く間に、半歌仙(18句)ができあがっていいきます。ただし、連句といっても、五七五でも七七でもない、単にコトバを連ねただけのものなのですが、筆ペンの字が連ねてあると、ちゃんと形をなしているし、しかも意外と見事にその場その場の情景が詠み込んであり、あとでこれを読み返すと、ちゃんとその日のことが、逐次再現できるから不思議なのでした。 1.高齢者において残されている能力 |
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