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No.12 働く女性のメンタルヘルスと
21世紀の労働のあり方

すてっぷ産業医事務所所長 長井聡里
イラスト 堀中 文子


2.女性にとって働きやすい職場とは

女性にとっての働きやすさを考える際に、いわゆる生物学的性差(セックス)と社会文化的性差(ジェンダー)のそれぞれに配慮が行き届いた職場環境が提供されることが、女性労働者の健康管理においてはとても重要な概念となります。もちろん女性の社会参加の進展は、職場で性差を意識することなく男女対等に働ける職場環境が提供されることでありますが、この一見矛盾したところにこそ、健康管理の必要性が生まれます。健康管理上の男女平等は人として生きる上で、むしろそれぞれの特性を最大限に発揮できるよう支援することこそがその本意といえます。

だからといって女性労働者の健康管理は、女性向けに子宮がん・乳がん検診や人間ドックを導入したり、女性スタッフを配置したりといったことで、事足りるわけではありません。生物学的性差については、脳の性差にも昨今は注目が集まっており、明らかな身体の差異に対しては性差医療の概念も導入されつつあります。また社会文化的性差については、私の専門ではありませんが、この問題を避けて健診結果や職務適正を総合的に判断することはできなくなってきています。私の産業医経験の多くは、やはり「24時間戦えますか」といった公私の見境なく果敢に働き続ける男性社員に向き合うことで得られ、組織の原動力といったものを理解してきました。女性が多数派の職場は確かに戦力として活躍の場が提供され大切にされていますが、まだまだ日本企業の多くは男性が多数派で、女性労働者向けの健康管理をする時間も経費もないといった状況です。だからこそでしょうか、このような職場環境で働き続けたいと女性たちが思うだろうかという思いが常々頭をもたげてきます。あるいは私自身、子育てしながらも職業柄、比較的男女平等の世界で働いてきましたので、「男性並みに働く」といった視点自体、何か違和感をぬぐえないでいます。なぜ、どこに、健康な青壮年男性を基準に世の中を回さなくてはならない理由があるのか。もちろん、これは長い日本のあるいは人類の歴史上、それが社会を成り立たせてきたわけなので、今すぐに何がどうおかしいと言うべきことでもないのですが、やはり21世紀これからの健康的な労働のあり方を考えるとき、このままでは女性はさておき男性にとっても大変まずい状況なのではないか、と産業医としてひしひしと日々感じているわけです。そして、実際に過重労働対策やメンタルヘルス対策などで、男性の働き過ぎや会社依存傾向に対して企業も動き始めていますし、超少子高齢化社会における労働力として、女性だけでなく高齢者や障がい者などさまざまな状況にある労働者にとって、それぞれの健康的な働き方を模索する時期がきています。

3.女性らしさのメンタル不調

1.はじめに
2.女性にとって働きやすい職場とは
3.女性らしさのメンタル不調
4.働く女性のストレスあれこれ
5.保護される立場から多様性における「差の価値の創出」へ
6.終わりに

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