ご挨拶日本精神衛生会とはご入会のご案内資料室本会の主な刊行物リンク集行事予定

No.12 働く女性のメンタルヘルスと
21世紀の労働のあり方

すてっぷ産業医事務所所長 長井聡里
イラスト 堀中 文子


4.働く女性のストレスあれこれ

女性に限らず昨今は男性も、潜在的な結婚願望はありながら未婚のまま30代から40代へと過ごしてしまう人も多いため、かつてほどには家庭をあるいは子供を持たなければというプレッシャーも薄れ、仕事に充実感をもって生活しているように見受けられます。しかし男性と大きく異なるのは女性の場合は如何せん、産む性としての母性には期限があり、アラフォー世代(40歳前後)ではよほど健康管理を意識していなければ、女性特有の生体リズムの乱れにより体調不良が一層顕著となり職場不適応を起こしやすくなります。そのことを正面切って本人から健康相談に来ることはまれで、上昇志向の強いタイプの場合は過重労働面談の折に、また上昇志向もないタイプの場合は、無理したくないのにキャリア向上のプレッシャーをかけられメンタル不調ではないかと上司や人事から相談が持ちかけられるといった折に、こちらは気づかされます。どちらも独身であることを周囲の心配ほどには語ることもなく、プライベートなことに必要以上に関わることの難しさもあり、女性の社会進出の証としてこれでよいのかと悩ましく思うことがあります。もちろん、今はその過渡期で、本来の女性の社会進出の証は、結婚や妊娠・出産・育児がキャリアアップの障害とならず誰もが享受しやすくなることであることは間違いないことでしょう。

一方、家庭を持ち家事や育児あるいは親の介護に追われている女性労働者の場合は、一見、職場では残業もそこそこで過重労働には該当しないものの、睡眠不足は存在し、実質上の身体的負荷あるいは精神的余裕の無さからメンタル不調に発展しやすい要素をはらんでいます。最近では男性にも独身か否かに関わらず親の介護の負担が生じてきましたので、社会文化的性差が縮まることで、必ずしもこれは女性に限った問題ともいえなくなっています。むしろそのほうが、やはり企業としても問題の所在を直視しやすく、ワークライフバランスやダイバーシティの実現といった人事戦略をいち早く導入し、これらの対策に着手するところも増えてきているようです。このようなメンタル不調に対しては、休養や治療効果以上に、女性労働者が一人でその家庭責任を背負わずに済むよう、ベビーシッターや家事代行、ヘルパーなど社会資源の利用を促すことで、症状の改善が顕著に見られることがあります。もともと責任感の強いタイプがこのような状況に陥りやすいため、特に外部資源を利用することに当初は抵抗を示しますが、それが世の中にとって当たり前のことになれば、受け入れやすくなるのではないでしょうか。ある有名タレントの介護疲れによる自殺の悲劇を繰り返さないためにも、職場においてもこのような対策に着手しておくことは大変有効な予防手段と思われます。特にやってしまいがちな配慮として、大幅な仕事の負荷軽減があげられますが、それも当初はありがたく感じられるものの、育児や介護といった長丁場においてそのような配慮はキャリアの中断を結果的には招いてしまいがちで、後々には「あの時にもっと頑張れたのではないか、もっと頑張るべきではなかったのではないか」と後悔させる結果ともなりかねません。過重労働対策や職場復帰支援でも仕事の負荷軽減は非常に有効で大切な手段ですが、それはやはり短期の期限が切られるような状況に対してであって、長丁場の家庭問題の対応においてはあえて職場に居場所、つまり負担にならない程度の役割委譲がかえって仕事と家庭の両立へのモチベーション維持に役立つようです。そのためにも医療的ケアばかりに依存させず、ハウスマネジメントにおける外部資源の活用を促せるよう、制度導入や情報提供に努め、女性労働者を会社に留め社会から孤立させないことがメンタル不調対策として有効な手段となりえます。これはもちろん、このような状況におかれる男性労働者にも有効となるでしょう。

5.保護される立場から多様性における「差の価値の創出」へ

1.はじめに
2.女性にとって働きやすい職場とは
3.女性らしさのメンタル不調
4.働く女性のストレスあれこれ
5.保護される立場から多様性における「差の価値の創出」へ
6.終わりに

ご挨拶 | 日本精神衛生会とは | ご入会の案内 | 資料室 | 本会の主な刊行物 | リンク集 | 行事予定