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No.4 見えざる自殺問題:自死遺族のサポート

奈良女子大学生活環境学部教授 清水 新二


「生き残り」の意味

 言うまでもなく、サバイバーは生き残った者、生き抜いた者を意味します。「生き抜いた」とは少々オーバーな表現にも思えますが、しかしどういうことを意味しているのでしょうか。どれだけその心情や心理を代弁できるか不確かですが、自死遺族の妻の立場から考えてみたいと思います。

 彼女たちはある日突然、配偶者の自死に遭遇し、悲嘆だけではなく受け入れるにはあまりにも不可解な体験をします。しかしながら今の日本ではそれは個人的問題として処理され、社会的には捨て置かれてきたも同然の扱いとなっています。中高年男性の自死が社会的問題として語られるのとは非常に対照的だと思います。

 遺された者は、自死の原因もわからぬまま自責の念や悔恨、見捨てられ感にとらわれ、悲哀と孤独に沈み、時には「なぜ?」と自死した夫を恨み、その思いにまた自らが苦しむことになります。さらに問題なのは、こうした不可解な感情や思いを周囲に吐露することもできないことです。たとえそうしたとしても、吐露された相手の困惑に自身が困惑し、より孤立感を強めたり、時には「あなたがもう少し注意していれば」などと非難めいた対応さえされることもあります。こうしたごつごつとした辛い体験を通じて、もう決して人には話すまい、ただ自分の心の奥深くに封印しておこうと、自死の事実と自分の感情を押し殺すようになります。また最初から周囲の反応が読めて、一言も自死であることを周囲には漏らさないことも普通です。しばしば自分の子どもに対してもです。もちろん自死に対する社会的偏見や忌避感がここには深く影を落としています。

封印し切れればそれはそれでいいはずですが、事実は正反対です。重く辛い体験を一人で胸の奥底に抱え込みながらも、一日たりともそのことを忘れることはないのが実情です。ある高齢の自死遺族の方からいただいた手紙には、もう何十年と子どもや孫に事実を話そうか話すまいかと悩み続けてきたことが連綿と記されていました。遺された自死遺族の多くは周囲からの理解もサポートもなく、こうした孤独で辛い思いを胸に抱えながら、その後の人生を歩み続けなければならないのです。いっそ自分も死んでしまいたいとの思いも一度ならず感じてきたはずです。事実このサバイバーの中から、再び自死する者が少なくないのです。遺されたサバイバーすなわち自死遺族とは、こうした体験と困難さ、そしてそれにもかかわらず生き抜いてきた人々を指す言葉です。

自死遺族へのサポート〜ポストヴェンション〜

自殺者3万人時代
中高年男子の自死問題とサバイバー
4人に1人が親しい人の自死を体験
「生き残り」の意味
自死遺族へのサポート〜ポストヴェンション〜
「自死」という言葉
「自死を受けいれる」ということ

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